グローバル研究会(世界経済の動向調査)
2014.9.9 クローバル研究会 (第3回)
グローバル研究会の開始に先立ち、前田光幸氏を座長に研究会を進めることを確認した。
前回、前田光幸座長は、 『我が国産業のグローバル化のマクロ的視点』題し我が国のグローバル化をマクロ的な視点から見てみようと提起した。そのテーマの報告があった。
大橋克已は、『中小企業のグローバル進出とリスク』と題し、前田座長が既にマクロの話をしているのでミクロの中小企業を中心に海外進出の際のグローバル進出とリスクについての報告があった。
浅野昌宏は、『イスラム圏の世界経済に及ぼす影響』と題して、中東情勢とかが世界経済に影響をしていることは分かっているが、どの程度規模か、最近イスラム金融が話題になっているので、イスラム金融などに関する報告があった。
<議事録>(39KB)
3回の研究会で「グローバル研究会」の取り組むべき課題と方向が見えてきた。
<議事録 3-1>(161KB)
我が国は貿易立国ではない
日本のGDPに対する輸出比率は、非常に低い。(図1の赤線参照)増えていない。80年代後半は下がっている。これは85年のプラザ合意が原因である。円安から円高にシフトした。日本輸出から内需へシフト。財政支出を土木工事その他で増やした。03、04年で上がったのは、対ユーロの円安である。当時なぜかユーロが強く円安効果があって下がった。
我が国は、貿易立国ではない。我が国の輸出依存度は世界平均の半分以下である。輸出依存度が上昇しない稀有な国である。80年代、日本は競争力が強くて、世界の輸出市場を取ったが、貿易黒字によって円高になった。従って海外立地したとの社会通念があるが、認識は違う。「プラザ合意円高誘導、内需刺激、輸出抑制、海外立地」は欧米の政治戦略と日本政府の譲歩。欧米が日本に圧力を加えた。
図1 主要国の輸出依存度推移
日本の経済社会構造変化と企業戦略
日本の経済社会構造を85年(プラザ合意)以降、95年(アジアの本格的な成長)以降、08年(リーマンショック)以降という3つの時代に区分した。(図2)
図2 3つの日本の経済社会構造とその変化
我が国の競争力再興コンセプト
(1)80年以降、政治的・経済的に米欧から継続的な圧力を受けた。
(2)技術移転、技術のコモディティ化、グローバル化(技術と資本の自由化)によるアジア新興国の抬頭に我が国は「国の競争力」を失った。そして自信を失った。
(3)欧州は日本、アジアの抬頭に対しEUで結束、ただし失敗。米国はITと金融でリード。
(4)中国・韓国・日本が共存共栄することが欧米が困るので、共存共栄が妨げられている。いまだに日中韓FTAは締結できない。
「2008年以降、金融資本主義は終焉を迎えている」と報告する前田座長。
【質疑】
85年のプラザ合意から日本は負のサイクルに入る
質問(小平):今回、3つの時代区分が提案されているが、前田座長のオリジナルか。
回答(前田):オリジナルである。85年のプラザ合意から日本は負のサイクルに飛び込む。日本は、無防備に輸出をし過ぎた。家電メーカーと機械メーカーにおいて日本は勝ち過ぎた。80年ころはオイルショックがあったが、81年頃から黒字続きで、欧米のメーカーが潰れた。日本を許せないと「プラザ合意」になる。250円はあっという間に200円を割った。90年頃、中国は存在感が無かったが、95年頃から存在感がでてきた。2008年以降は金融資本主義の終焉である。今も亡霊は残っている。
「海外に出ても雇用が増えている(通商白書)」は本当か
意見(大橋):プラザ合意、国際化、グローバル化、アメリカンスタンダード論としての進展、その後のアジア台頭をともないながらのリーマンショック、地域再編としてのEU。産業別の構造変化が起こり、潰れるところは潰れていったし、集約された。クラレは、色々やっていたのを「これは止める」という整理が15年~20年続いてきた。やり方を変えてモノをつくるというのが組み合わせやコンセプトの変革に長い間取り組んできた。海外への戦闘能力をつけながら広がってきた。中国がWTOに参加(2000年前後)してから、企業が参加した。ヨーロッパのEU統合と同じ時期であった。中国にシフトしながら、韓国も台湾も含めながら、中国を経由し米国に輸出するケースも出てきた。
回答(前田):コアの部品を日本の中で作って、中国に出して、中国が欧米に出すというパターンが起きている。
意見(杉本):私の経験では、半導体が大きくて、1985頃までは日本が断トツでメモリで強くて、「日米半導体摩擦」といわれ、輸出ができなくなり、製造を含めて大きな変化に日本が対応できなかった。通信は国内の規制で持ってきた産業が、過当競争に勝ち残れなくなってしまった。残っているのは、銀行ATMとか、プリンターとか、垂直統合などのところ、メカトロ的な産業が残っている。海外拠点からの輸出は増えているのは、なんとなく分かる。電機産業はそうだ。通商白書の「海外に出ても雇用が増えている」というのが、本当にそうなのかなと思う。違和感がある。人数からいうと、工場が海外に移転している。
意見(大橋):繊維産業は、雇用が減っている。電機の組み立ては減っている。その結果、日本の地方が疲弊している。
意見(西河):ニートと言われる仕事につかない人達が、圧倒的に増えている。
意見(小平):フリーターも親がいるうちは良いが、いなくなったら貧困になる。社会的にも暗くなる。
意見(西河):団塊の時代がリタイヤしたら誰が支えるのか。
働いている人が減ってはGDPは増えない
意見(大橋):貿易立国と言われた日本がGDP比で低い。日本は貿易立国であると信じてきた。
意見(小平):働いている人が減っているので、GDPが減っている。雇用を増やさない限りGDPは増えないと思う。貿易収支が赤字になると日本は苦しくなる。
意見(前田):今の日本、20円も円安になっていながら輸出が増えない。
意見(小平):生産現場が国内に亡くなったから、輸出は増えようが無い。今まで日本で生産していた時には、付加価値が国内に落ちていた。会社の収支では変わらなくても、日本の労働者に落ちるか落ちないかは大きい。製造原価の人件比率が3割であったら、3割は国内に落ちていた。それが海外で出てしまっていることを理解しておかないといけない。日本のサービスは国内でのやり取りで、これで付加価値は生まない。
日本はサービス分野での輸出が少ない
意見(前田):日本はサービス輸出が少ない。米国や英国は多い。病院とか、鉄道ビジネスを日立がやるとか、銀行が海外に出るとか。
意見(西河):クロネコヤマトとか外食産業が出はじめた。
意見(淺野):輸出も米国や英国は伸びていない。成熟した国家はそうなるのでは。
質問(小平):前田さん提案の時代区分の10年前の沖縄返還で繊維の問題があった。それは繊維産業を中心に産業構造の大きな変革になったと見る。
回答(大橋):競争力のあった繊維が自主規制をした。米国はそれをやらせる。鉄鋼でも同じである。プラザ合意では、円高で輸出製品全品が赤字となった。当時は国内生産が主で、その影響は大きかった。
<議事録 3-2>(310KB)
前田座長がマクロの話をしてくれたので、私はミクロの中小企業を中心に海外進出の際のグローバル進出とリスクについて報告したい。
現実的にどのようなことに悩んでいるか、またどのようなことをやろうとしているかを調べた。
基本的には、政府の機関の調査資料を使い、資料を解説しながら調査内容を報告する。
「担当役員が実際に海外の現場にまで見に行かなければ、現場を管理できない」
と
話す、大橋克已研究員(右)、左は西河洋一理事長。
1.中堅・中小企業の海外展開における国際連携動向調査
独立行政法人中小企業基盤整備機構が海外展開する中小企業が抱える課題をヒアリング(2013年3月)した文献があった。どのような課題が顕在化しているか、調査レポートで浮かび上がった中小企業が海外展開で成功する為に必要な10ポイントが書かれている。
(1)海外を経営者自らが体験する事
(2)進出先国・地域特有の事情の把握
(3)周到な事前準備をする
(4)高い技術力や独自性とそれらの恒常的な追求
(5)連携先企業に勝るポイントを確保する
(6)信頼できるパートナー
(7)適切なパートナーの選定
(8)綿密なコミュニケーション
(9)独立した海外事業
(10)海外に向けに情報発信
2.海外展開成功のためのリスク
現地法人が直面している事業環境面の課題・リスク人口減少や取引先の海外移転等による国内需要の減少に伴い、大企業だけでなく中小企業においても成長著しいアジア等の海外需要を取り込むため、海外展開が拡大傾向にある。
また、海外展開を行っている企業は、海外展開を行っていない企業より国内の従業員数を増加させる傾向にあり、海外市場で自社の強みを発揮することにより、国内事業を活性化している多くの事例がある。
中小企業が海外展開する際には、国内とは異なる特有の課題・リスクに対応しなければならない。現地法人が直面している事業環境面の課題・リスクとして、「人件費の上昇」、「為替の変動」、「現地人材の確保・育成・労務管理」、「法制度や規則の複雑さ、不明瞭さ」等が上位に挙げられている。
まとめ
日本に比べると、中国をはじめとする海外はビジネスチャンスにあふれた魅力ある国々であるが、進出すれば成功が約束されている訳ではない。海外への進出前後に「ビジネス・リスクマネジメント」を確実に行うことが、海外事業の成功には不可欠であることを忘れないようにする必要がある。(図3参照)
図3 リスクマネジメントフロー
【質疑】
仕事の分かっている人が海外の現場に見に行く
質問(小平):今回の話は中小となっているが、大企業では異なるのか。
質問(前田):中小企業は社長が行く。大企業は、担当役員が行くということか。
回答(大橋):担当役員が実際に現場にまで見に行くかは疑問である。心構えが必要だ。
意見(淺野):仕事を分かっている人がいかなければ、現場を見ても分からない。
回答(大橋):現場が分かる管理者は「工場に行って音を聴いたら分かる」という。それで工場の稼働率などが分かってくる。ところが現場に行きたがらない。現場に行って分からなければ聞けばよい。聞いたら嘘は言わない。韓国の工場と日本の工場では韓国の工場が劣っているという潜入感を持って見に行くので見えないことがある。ところが現場は工夫をしている。中国などでも日本の管理方式を導入すると格段に成長する。
意見(杉本):米国での経験であるが、品質管理などが進んでいるところもある。一番苦労したのは、人が変わった時である。人が変わるとマニュアルがあっても変わってしまう。現地の人と安定した仕事ができるかが課題となる。
日本は部長教育、役員教育をほとんどの会社がやっていない
意見(大橋):日本のサービスはオーバーサービスか。
意見(杉本):私はそうとは思わない。米国は、あるところまではQCDのうちのD(納期)が優先してしまう。特にソフトウェア開発ではそうである。
意見(前田):グローバル人財の絡みで、現地のスタッフのトレーニングもあるし、日本の中でのグローバル人財のトレーニングもある。日本は終身雇用をベースに人財教育をやっているつもりだが、金と時間をかけているのは米国企業である。特に米国の業績の良い会社は幹部教育を一生懸命やっている。日本は部長教育、役員教育をほとんどの会社がやっていない。
意見(杉本):GEが幹部社員教育に力をいれている。GEの図面の体系とか社員の資格など、GEがベースになっていて、現地で採用した幹部がGEのことを事例にするので、GEの事を勉強した。
意見(前田):日本の人事部がどの会社も一番遅れている。
意見(小平):GEの幹部社員教育は有名で、ジャックウルチが出て来て泊まり込みでやる。
意見(前田):IBM,ボーイングなどもそうである。
意見(杉本):米国は4年程で変わる。どこの会社ではどうしたという幹部社員が沢山いる。沖電気しか知らないが米国の人達は似たようなことを言う。何を教育しているかは分からないが、図面などは全然違っていて、ショックであった。
意見(前田):金を掛けている。ホテルに幹部を缶づめにしてやる。日本でエクゼブティブ教育をしている会社は無いのではないか。
意見(大橋):日本には、そもそもプログラムが無い。
<議事録 3-3>(128KB)
「イスラム圏の世界経済に及ぼす影響」ということでまとめた。中東情勢とかが世界経済に影響をしていることは分かっているが、どの程度規模か、最近イスラム金融が話題になっているので、イスラム金融の話をしたい。
この辺りが注目をあびるとおもわれるのは、イスラム人口が増えるということ、オイルマネーがこれからも世界経済を動かす要因になっている。
イスラム金融もこれから成長するとみる。イスラム圏の注目度も高くなる。
1.人口に見るイスラム圏範囲の拡大
イスラムが中東であるということでは無いことを説明したい。
イスラム教徒の人口は2010年時点で、16億人である。これは推定値である。世界人口の23.4%を占める。
2030年には約22憶人になり、世界人口の26.4%まで増加すると見込まれている。
これは、イスラムの年間人口増加率が、非イスラム教徒の2倍の1.5%と高い率と見込まれて計算されている。
16億人のイスラム人口の内、アラブイスラム国の人口は3億人である。
アラブ人とは、アラビア語を話す人達である。アラブ人のイスラム教徒が3億人で、エジプト、アルジェリア、モロッコ、イラク、サウジアラビア、スーダン、イエメン、シリア、ソマリア、チュニジア、ヨルダン、リビア、オマーン、アラブ首長国連邦、パレスチナ、レバノン、クウェート、カタールである。
非アラブイスラム国だけで10億人いる。
それは東南アジアでは、インドネシアであったり、パキスタン、バングラディシュ、マレーシア、モルディブ。
イランはペルシャ語。トルコもトルコ語でアラブ人ではない。アフガニスタンも独自。
アフリカでは、セネガル、ギニア、ガンビア、コモロ、ジプチ、マリ、ニジール。
中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン、アゼルバイジャン。東ヨーロッパのアルバニアなど。
その他の国のイスラム人口ハ、インド(113百万人)、ナイジェリア(54百万人)、エチオピア(27百万人)、中国(25百万人)、カザフスタン(8百万人)、コートジボアール(6栢万人)、ブルキナファッソ(5百万人)などで、3億人。
「黒くなっているところは、イスラム教徒が6割以上いるところである」と話す、淺野昌宏研究員。
2.イスラム金融とは
イスラム金融とは、一言で言うと無利子型の金融である。
イスラム教の教義に則った金融取引の総称で、利息の授受、不確実性のある取引や、投機的行為が禁止されている。食べ物では、豚肉とアルコールなどが禁止されている。これが金融商品の取引に制約が生じている。
■イスラムの基本的な考え方
(1)万物は全て神の所有
イスラムでは、万物は全て神(アラー)の所有と考えるので、例えば、金持ちとは「神から金を預かっている状態」との位置付けになるという位置づけで、「お金は仕事をすることによって得られるもの」との基本的な考え方であり、働かないで貸しただけで利子を取る事は禁止されている。即ち、ビジネスのリスクも取らず汗もかかない不労所得は認められない。
(2)3つのタイプの銀行
イスラム貯蓄銀行:個人や中小企業を対象にした預金や住宅ローンを扱う。
イスラム投資銀行:金融商品を扱う。
イスラム開発銀行:インフラ整備、大規模プロジェクト、貿易金融を扱う。
(3)イスラム金融のルール
投資して配当を受け取る。
事業のために利子を付けないで金を貸し、事業が成功したら分け前をもらうという考え。これは「投資」であり、貸した側も一緒にリスクを負うので公平であるという考え。
投資はあるが、融資はない。ここには「融資と利息」は存在せず、「投資と配当・利潤」がある。
融資をする事は、銀行は何も仕事をしていないのに利益を得る事になるからで(借り手は事業失敗のリスクがあるが、銀行には事業失敗のリスクがないのは公平ではないとの理由)公平であるべきとのイスラムの教えに反する。
期間利子を取らない。
金を貸す期間によって利子に大小を付けることを禁じたもの。当時の商慣習として存在した行商による賃借期間の長さで利子を取る期間利子を禁じた。
お金を流通させる。
万物が神(アラー)のもだから、金といえども速やかに神に返さなければならない。
神に返すという事は、事業に投資することとは神が次に預ける人に渡す事であり、必要でない人から、必要な人へ金を流通させることになる。
資金活用を進める。
喜捨の戒律があり、金を持っている人は、持っていない人(貧しい人)に喜捨せねばならない。 金持ちは持っていると減ってしまうので、持っているだけでは、ドンドン目減りするので、手元に置くよりは投資して配当を得ることになる。
■無利子型金融
無利子型金融の4つの型を紹介する。
(1)掛け売り型(Murabaha)
銀行が、商品や原材料、設備機器などを購入し、事業家に手数料を上乗せして転売する。手数料は、事業家を援助する事に対しての報酬であり、利子ではない。事業家は代金を後払いか分割払いにする事が出来て、資金繰りが楽になる。
(2)賃貸借契約(Ijara、Gard)
銀行が商品を購入して事業者に有償で貸す。リース契約と同じである。工場設備、ビル建設、飛行機などの大型商品に利用される。
(3)出資型(匿名組合・Mudaraba)
銀行が出資者(預金者)から預かった資金を、事業家のプロジェクトに投資する。事業家は事業を展開して得た利益を銀行に分配する。銀行は出資者に対して事前に決めておいた配分比率(預金者60、銀行40など)で出資者に利益分配をする。利益が出なくても銀行の責任は問われない。事業が失敗した場合は、銀行は出資者に出資額を補填する。または銀行が資本家と事業家を仲介し、銀行は利益の見込みがある事業に投資して、収益が出た段階で配当を受け取る方法もある。不動産取得や開発の資金調達に利用される。
(4)出資型(合併事業・Musharaka)
資金の流れは、Mudarabaと同じだが、銀行は共同経営で事業に参加する。大型案件とか、事業取引で損失が生じた場合、銀行も出資者の出資比率に対して損失を補填する義務がある。利益の配分は、出資比率とは別になるケースもあり、長期の事業展開に使われる事が多い取引形態。