西河技術経営塾・上級コース検討研究会
2014.12.11 上級コース検討研究会(第4回)
<議事録> (171KB)
小平和一朗専務理事から前回議事録の確認として、西河技術経営塾に関連して『セグメンテーション』『コンセプト』『技術経営』『上級コース検討の目的』について、まとめの報告があった。
今回の研究会では、各委員が考える『日本型経営』と『技術経営』について報告があった。
1.西河技術経営塾のこと(前回の議論から)
1.1 セグメンテーション
(1) 実践経営スクールの目的
我が国の持続的な成長と活性化のために起業家や事業家の支援に取り組む
財団の設立趣意書:日本には、良い技術や技能があるが、事業化の壁は高く、起業するベンチャービジネスは少ない。我が国の持続的な成長と活性化には、起業家や事業家などの支援に取り組む必要がある。
募集要項:中小企業の若手経営者を主たる対象としたスクールで、日本の産業の基盤を支える経営者を育成することになると期待している。
(2) 基礎コースの受講対象者
今経営をしているが、経営を学んだことのない人に主力を置きたい。
(3) 実践経営スクール・基礎コースのセグメンテーション
中小企業の若手経営者(28~50歳)を対象とする。経営をしている人、会社立上げ(起業)の準備に入っている人を対象とする。充分な仕事の経験を積んだ人。
1.2 コンセプト
(詳細は議事録を参照して下さい)
(1)MOTを学びながら取り組む
(2)日本を豊かな国にする
(3)経営学は複合学、少数の講師を固定して科目を繋いで教える
(4)経営学を学んだことがない経営者に経営を教える
(5)経営学は未来学、未来を組み立てる力をつける
(6)未来を教えるとは、高い目標をどのようにして実現するかにある
(7)西河技術経営塾と既存のMOT大学院とは競合しない
(8)塾では、先生と生徒が意見交換をして経営を共に学ぶ
(9)人間が成長していくスクール
(10)技術経営(MOT)を学ぶ
西河技術経営塾のコンセプト、技術経営、日本型経営、上級コース検討の
目的などを報告をする研究会座長の小平和一朗専務理事(右)、隣は
加納信吾東京大学大学院准教授(中央)、前田光幸高知工科大学非常勤講師(左)。
1.3 「技術経営」に関する議論から
経営経験が無いから技術経営が分からないのではないか
(1)経営マネジメント、人、モノ、金、情報、時間のコントロールが出来ないで、経営は出来ない。
(2)モノづくりをしているということは、経営マネジメント、技術を分からずにコントロールすることは出来ない。経営を実践された方は、技術経営といわず日常的に技術経営をしている。
(3)経営をしている人にとって『技術経営』は当たり前だ。
(4)我々が実戦でやってきた人達、先ほど「城をつくる」と言ったら、「分かりました」と答えるには、頭の中でそれに必要な金とか、技術とか、人だとかを、どのように集めて、というのを構築した上で「やります」と答える。そしてそういうことを実践してきた人が会社経営をどのようにやるのかの観点から塾で教えていく。それは他のビジネススクールには無いはずだ。
(5)経営塾と技術経営塾とがどこが違うかの議論の中で、技術経営(MOT)とは、実践的に経営経験をされた方にとっては「技術管理、技術が分かっていて事業計画、予算管理を立案する」ことは常識である。それは空気みたいもので、ある意味では、技術を意識した経営が当たり前な事である。
(6)理系の工学をやっている先生が経営を教えられるかというと教えられないと思う。企業経験の豊富な先生が大学に帰らないと難しいと考える。
スペシャリストを集めても経営を教えることは出来ない
(7)各方面のスペシャリストを集めて教育が出来るかというと余り体系化が出来ていないので、講義は個別の問題となる。
(8)通常3か月でしか建てられない家を1か月で建てるということは、そこに追従を許さない隠れた新技術が開発されていると見ることができる。それはアップルがiPhone等で先行している商品を支えている技術と同じで、それも新技術といえる。応用技術ではあるが仕掛けが掛かっている。
1.4 日本型経営とは
(1)日本型経営で求められるのは、「日本の中で尊敬されるのはどのような経営像か」にある。
(2)「アフリカ政策では、植民地政策を進めてきた欧米型の支配型とビジネスや技術を輸出し、現地に産業を起こす行動をとる」。これも日本型経営であると思う。グローバル戦略における「日本型経営」を含めて研究する。
(3)中小企業といっても、将来、どう大きくなるかは分からない。西河塾長の会社のアーネストワンは10年ほど前9名の会社で当時は中小企業であった。
(4)講座としては海外戦略の話をしていく。塾生の一人も海外に出掛けてマーケティング活動と海外の顧客訪問に取り組んでいる。
1.5 上級コース検討の目的
(1)上級コースの検討は、基礎コースの先生の育成のために必要であるからと考えている。基礎コースの先生達の学問領域を深めなければならないと考えている。
(2)現状取り組みを始めた基礎コースのニーズは相当ある。西河技術経営塾の発展形態を考えて行くと先生の育成に取り組む必要がある。
(3)「リーダーコース」は、技術経営人財の養成およびリーダー力の向上に取り組むコースで、「指導者コース」は、技術経営人財を指導・育成できるコンサルタント、つまり当実践経営スクールの指導者(教員)を育成する目的のコースである。
(4)指導者も作っていかないといけない。塾の将来像を考えると指導者が必要になる。
(5)基礎と上級という事は指摘のとおりで、基礎コースを終えてまた何年かして勉強したいという塾生には、学問的な専門の所を学ぶことも重要なのかと思っている。全部絞ってこれだというのではなくて、どういう風にしたら良いのかの研究に取り組んでいく。
(6)当塾としては、奨学金を出して他大学のMOTを学んでも良いと思う。他大学のMOTに学ぶべき講座があればそこにいけば良い。長期計画で取り組む。
2.「日本型経営」とはなにか
日本型経営は、ベンチャー企業に不向きではないか
<意見交換>
加納:日本型と言うと「和をもって貴しとなす」という考えが強く、スピンオフでベンチャーをやることは村八分で出て行くと言うところがある。それが「スピンアウトを促そう」という考えからは、アンチテーゼに陥ってしまう。事業を始める時にお金を入れる人がいないと取り組むことは出来ない。担保がないのでお金を借り入れることは出来ない。ベンチャーキャピタルのロジックは、非日本的である。
鈴木:日本型とは、日本の環境の中で成立しうる経営ということだと思う。
加納:ベンチャー起業と終身雇用とは切り離して考えるべきである。「ニューテクノロギーファーム」という考えを後押ししようという考えから遠い。
大橋:「日本型経営」に関する考えは、はっきりしておきたい。精神論的なことを含めた日本型経営は存在する。そこにベンチャーを制度、社会に入れ込まないといけないのか。必要であれば、それと異なるロジックを我々の社会が受け入れるかである。それは日本型とは関係ないと考えて議論するのか、それを含めて日本型経営全体をあるのか、無いのかを議論したい。
小平:西河技術経営塾の案内では、西河塾長とも議論し「次世代の日本型技術経営を若手塾生とともに学び、社会に役立つビジネスを創生する」とした。財団では設立当初から「技術経営人財の育成と活用に関する研究委員会(委員長坂巻資敏元リコー常務執行役員)」の中で20回(2年間近く)開催し、その中で研究し、議論してきた経緯がある。その成果を今日は報告し、次に上級コースの検討の事もあるので、未来像としてその内容を評価するのかを、今日議論したい。
加納:設立趣意書に「日本には、良い技術や技能があるが、事業化の壁は高く、起業するベンチャービジネスは少ない。我が国の持続的な成長と活性化には、起業家や事業家などの支援に取り組む必要がある」ということで財団は作った」とある。これだと思う。これに日本型経営は関係ないのではないと考えている。
小平:我々が考える「日本型経営」を整理して、それを聞いて頂いてから議論をしたい。議論をすることで、財団が何に取り組むべきかが見えてくると考えている。
座長の小平和一朗専務理事(左)は、「西河技術経営塾の案内では、西河塾長とも議論し『次世代の
日本型技術経営を若手塾生とともに学び、社会に役立つビジネスを創生する』としたとその経緯を話す。
隣は鈴木潤政策研究大学院大学教授、大橋克已研究員(右から2番目)、淺野昌宏理事(右)。
2.1 淺野昌宏が考える「日本型経営」
日本型では「会社」は社会の公器であり、事業を通じて社会に貢献するもの
日本型経営を考えた時に、その背景にあるものは、日本の歴史があって、家とか、村落共同体とか、運命共同体とかへの所属の概念があった。それから商人道、近江商人とか、紀州の商人とか、堺の商人とか、浪速とか、商売の「三方よし」など商人の理念が裏付けとなっているのかと思う。歴史的に日本の企業は、機能的な性格と共に、共同体的な性格も併せ持ってきた。
日本型の経営は、経営体としての経済的目的を実現する為の機能と、それに加えて共同体原理に立つ社会的役割を果たしている。従って、米国型の株主価値向上に偏重した経営とは違う。「会社」は社会の公器であり、事業を通じて社会に貢献するものとの認識が、伝統的に日本にはある。
米国型で企業の目的は株主への利益の還元にあり、短期的利潤の追求が優先する
米国型の「株主至上資本主義」では、企業の目的は株主にとっての価値を上げる事、すなわち「株価を上げること」になっていて、現在の様に過度に短期的利潤を追求して行くと、いずれは破綻を来す。
原丈人は日本型経営を基本とした「公益資本主義」を唱えている。会社は株主だけのものではなく、従業員や顧客、仕入先、地域社会、そして地球全体を含めた関係者のものであり、公益の実現の為に必要な要件としては、ROEに代る新たな基準を(1)分配の公平性、(2)経営の持続可能性、(3)経営の改良・改善性に置いている。
それを株主至上主義(米国型)と公益資本主義(日本型)を表1に対比して整理した。
この比較でいうと、資本主義では「お金」が手段だったものが、目的になっていることで、その原因の一つに数値化がある。ROEという数値がいつの間にか目的化してしまったことの問題があるのではないか。従って、日本型経営を公益資本主義として捉えて考えてみたらどうか。(表2.1参照)
表2.1 株主至上主義と公益資本主義との対比 (淺野報告)
2.2 杉本晴重が考える「日本型経営」
西河塾そのものがミニ日本型経営体験の場になることを目指している
日本型経営とは、日本文化と融合した社会・公共の為に企業は存在する公益資本主義といえる。日本型経営に対する私のイメージを次のように整理した。
(1) 企業にとって重要なこと
社会に貢献し永続する。利益を上げ税金をはらう。経済合理性より、顧客第一・顧客満足度重視され、その結果経済合理性を得る。
ストックホルダーとの厚い信用・信頼関係。雇用を増やし従業員の生活を豊かにする。
(2) 経営スタイル
企業と従業員は運命共同体である。労使関係は単純な上下関係ではなく、企業も従業員も一緒に成長する。
上司と部下は師弟関係にある。会社は長期視点から人財教育育成に取り組む。
マニュアルより現場力、知恵を出し合うチームワークとボトムアップ。
倹約節約精神で、ムダなものは作らない。
地道な努力を尊重する。
正当な評価と安定した応分な報酬を与える。
中小企業の良さを失わない優良中小企業の存在。中小企業は機動性に優れ、専門家(プロ)集団、コミュニケーションの良さ、家族経営。イノベーション、特に先進技術とモノづくりに優位性をもっている。起業時には持っている。
(3) 西河塾パンフレットへの反映
日本型経営を「体験」する。
西河塾そのものがミニ日本型経営体験の場になることを目指している。
これは、演習と実際の実務への反映とか、塾生間、塾生と講師が共に切磋琢磨し新たな業種、企業を越えた新たな気付きとチャレンジに取り組んでいる。
(4) 日本型経営を「学習」
実践経験者(講師)からの実体験を踏まえた講義。日本の置かれた環境認識と日本型経営の本質を理解する。現場力を活性化するリーダーシップ(経営力)向上。
2.3 大橋克已が考える「日本型経営」
利他的なものを残しながら株式会社をやるという精神的なものの中に優れたものがある
(1) 日本型経営という概念は、経営学において、各地域・各国の経営スタイルを比較することから戦後の日本で行われている経営を外国、特に米国との比較において特徴を抽出したもの。
その背景には、敗戦後の米国占領政策の一環として「民主主義・自由主義」の浸透を図るため旧来から日本で行われていた経営慣行、特に雇用関係、取引慣行などに注目した。封建的な古さが強調され、明治以降日本に導入された欧米(特に欧州)のビジネス慣行や法制度などは、余り評価されなかった。
(2) ジェームス・アベグレインの書いた『日本の経営』の中で日本型経営の特徴を「終身雇用、年功序列、企業別組合」と指摘している。
また日本企業の戦後の変容は、メインバンク制、株式持合、新卒一括採用、労使協調、護送集団方式、官僚統制など社会の諸制度の中に浸透した。
また高度経済成長時代は旧来からあった緩い企業会計原則のもとでの長期的な視点に立つ経営、長期的収益・永続的発展のための福祉厚生施設の設置や社員教育の充実、稟議制度に代表される集団主義的・ボトムアップ方式による意思決定などの企業内の経営スタイルをとっていたが、ソ連崩壊・バブル崩壊などグローバル化の浸透とともに米国型経営の影響を大きく受けるようなってきた。
(3) 米国型経営は「事業収益性、情報公開、経営の透明性」など株主資本主義的の優れた一面を持っている。企業経営には短期的視点に立つ経営を求めている。この経営目的を達成するためには、事業の積極性の強調、官民癒着や村意識からの脱却など日本型経営の弱点を改めることを求められている。
しかし、社会制度化した終身雇用、企業別組合、系列取引など個別企業ごとに制度化、慣行化したものを一気に法制化することは社会的歪を生むことになる。
たとえば現在進行している企業の雇用関係の中で「正規雇用と派遣契約雇用」の問題も企業内組合が主である日本において経営者・被雇用者との損得や満足は、賃金だけでなく社会保障費、年金負担、納税負担など制度が複雑である。
またさまざまな制度が新資本主義のもと、またグルーバル化の進展で多様に組み合わされ徐々に一つの制度に纏め上がっていくと認識している。企業の置かれているポジションにより経営スタイルは選択・融合していく。
(4) 日本型経営は常にその時代と取り巻く環境により影響を受け、その都度受容と変容を繰り返しながら継承さえている。
またグルーバル化が今後ますます進む。世界との交流が日本経済にとって必修である。
そのため様々な外からの影響を受容し、自己咀嚼して自己化していくこととなる。
消化には時間が懸かるが、その分自分のスタイルの中に取り込むことが出来る。日本とは、そういう国だ。例えば、近江商人の家訓、二宮尊徳の報徳仕法で災害に会った時の再建策を説き、渋沢栄一は明治維新に株式会社を作って資本を集め、運営し、多種多様な企業を設立した。また武藤三治は家族主義的な形でグループを運営した。
こういう形で日本の企業経営は、その環境により経営のスタイルを選んでいる。
そして多様な形で残っている。公益性、利他的なものを残しながら株式会社をやっていくという精神的なものの中に優れたものがある。日本的な良さを残してやっていくことが大切である。
(参考:ジェームス・アベグレイン(1958)『日本の経営』、日本経済新聞社)
2.4 小平が考える「日本型経営」
(1) 基本的な指導方針
日本型経営の強みはボトムアップ力にある
西河経営塾における「日本型経営」を整理する。
日本の工場や海外の工場を見てきたが、基本的な違いは「現場力」にある。
海外ではボトムアップ型の経営には取り組まない、取り組めないでいる。
作業者に現場改善を期待しないし、それを好まない。当然ながらトップダウンのQC活動に取り組めても、ボトムアップ型のQC活動には取り組めない。当然、TQC的な発想はできえない。
日本の多くの企業では、その日本型の組織体制と社員教育で取り組んでいる。
その対応が出来ない企業が成長を止めている。
西河技術経営塾では、経営戦略を社員に明示し、社員とともに企業目標に向かって事業に取り組む会社にするよう、指導をしている。
(2) 日本には世界に通用する「企業家精神」がある
老舗企業には現代にも通用する企業理念や行動規範がある
欧米のプロジェククト型経営(目的が達成したらクローズ)から日本の企業重視の経営(企業は永遠、終身雇用、何代も継続)について、企業家精神というテーマで報告したい。
「企業家精神」はあらゆる分野の行動原理に共通して言えることで、特定の分野や役割、産業界だけに言えることではない。政治、経済、産業など社会を支える全ての分野を活性化し進化させ、変革を生み出す力の源、普遍的な原理原則である。
日本では、企業家精神と対極にあると思われる「形から入り時間をかけて学び会得し、初めてその心が見える道の世界」といった「道」に日本的アイデンティティーとスピリッツがある。伝統文化と道の概念が、日本を際立たせるアイデンティティーの支えになっている。日本の家業、企業の歴史には、しっかりとした企業家精神が根底にあり、鎖国前から海外貿易に乗り出していた。そこには、ベンチャー精神旺盛な企業家達の存在があったわけで、その根底にあるのは企業家精神だと思う。
世界に例を見ない数の超寿命の老舗企業の存在
日本の道を支え続けてきた伝統文化の根底に時代の変革を取り入れ、継続させる力がある。日本にはそれを先導するリーダーがいて、そのリーダーに企業家精神が機能してきた。日本人のそれは、普遍的な世界共通の行動原理だといえる。
日本には、創業期の乱暴とも言える挑戦的な行動と、試行錯誤の繰り返しの結果、世界に例を見ない数の超寿命の老舗企業が現存している。創業者の試行錯誤と失敗事例からの学びに、現代にも通用する企業理念や行動規範がある。
世界に誇れるガバナンスの規範精神がそこに内在している。
(参考:小平、柳田、大橋、柴田(2013)『日本経済の復活と企業家精神の重要性』、開発工学)
(3) 日本型組織のリーダーがイノベーションを創生するには
日本企業の中でイノベーション事業に取り組むにはCEO自らがイノベーターになることだ
イノベーターの育成を心掛けなければならない。その際、組織の総意によるイノベーションの創出は困難であることを理解しておかなければならない。
日本企業の中でイノベーション事業に取り組むには、企業のCEO(最高経営責任者)自らがイノベーターになるか、イノベーターとなる人を人選し、その人の事業活動を守らなければならない。
日本型組織における変革時代のリーダー像とは、
・未来に向かって、善い目標を持っている。
・良い人がついてくる。良い仲間がいる。
・常に現場に立ち、現実を直視する能力をもつ。
・異議や異論を束ね目標実現に向け、組織を誘導する。
・「率先垂範」、常に先頭に先立ち、模範を示す。
・部下の仕事の責任を取り、案件解決に向け逃げない。
・部下に機会を与え、部下の指導、育成に取り組む。
<意見交換>
加納:外国の企業でも同じ。
小平:同じであるが、外国の企業では出来ていないし、やらないと思う。
加納:ビジョンを提示して皆でシェアすることは外国でも取り組んでいる。
小平:全社員ではやらないと思う。特に工場の労働者とはやらない。経営スタッフとはやるが、工場の作業者とはやらないし、できない。
加納:TQC的なものはやらないが、会社がビジョンを提示してシェアすることはどの会社でもやっている。そうでないと組織は動かない。
小平:外国ではブルーカラーとはやらない。ブルーカラーの管理者ともやらない。米国に工場を品質で監査したことはあるが、できないし、やらない。
加納:ホワイトカラーとはやっている。
小平:ホワイトカラーとは必ずやっている。マネージャークラスとはやっている。日本では、現場の係長、作業者まで、品質管理に取り組んでいる。会社方針は現場に降りてくるし、下からも提案、意見が上がって行く。日本でもそれは機能化している会社だけだ。
2.5 鈴木潤が考える「日本型経営」
市場がグローバル化している現状がある
日本型経営の話をする。アカデミックでは、こういう話はかなりやられている。
経済か経営なのかは分からないが、レギュラシオン理論がある。70年代から盛んになった。バックグランドはフランスで、マル経の流れが強い。
レギュラシオンは、英語でレギュレーションと言い、「規制」では無い。日本語では「調整主義」。
有名な本は、ミッシェル・アルベールが書いた『資本主義対資本主義』という本がある。その中で、アングロ・サクソン型と日本-ラインラント型に大きく分けて対比している。(表2.1参照)
基本的にどちらが良いとか悪いとかではない。異なった2類型があると言う話である。ただアルベールは、日本-ラインラント型に好意をもっていたとの説はある。
イノベーション、世界的に見て米国のベンチャー企業が目立つ。必ずしもアングロサクソン型とか日本型とかでは説明できないと言う人もいる。米国は高いが、UKはそういうことでは無い。企業の経営スタイルは米国と英国では同じである。
個人的な見方ではなく、良い悪いと言う価値判断には意味の無いことで、それ以前に前提としての避けられない環境変化がある。それがグローバル化で、3つ位ある。まず技術で、これには国境が無い。技術開発とか、研究開発とか、科学には国境が無く、日本がということでは無い。技術に追いついていこうとすると、日本だけではいけない。
もう一つは、市場がグローバル化している。WTOなどの国際的な貿易管理の条約が大きい。昔みたいに非関税障壁で、国内を関税で守ることは出来ない。
表2.1 アングロ・サクソン型と日本-ラインライト型との対比 (淺野報告)
表2.2 日本・ドイツ・米国の資本主義のしくみ
3.技術経営とは
3.1 大橋の考える技術経営
技術経営とは、技術を使って何かを生み出す組織のための経営学である
技術経営は、Technology Managementとか、技術マネジメント(Engineering Managementと呼ばれる。「技術経営」という名称は「技術を駆使した経営」という意味に取れなくもないが、技術経営が扱うのはそうではなく、主に製造業がものづくりの過程で培ったノウハウや概念を経営学の立場から体系化したものである。すなわち、技術を使って何かを生み出す組織のための経営学である。そのため技術版MBAと説明されることも多い。
その目的は、産業界、または社会にあって、イノベーションの創出をマネジメントし、新しい技術を取り入れながら事業を行う企業・組織が、持続的発展のために、技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を生み出していくための戦略を立案・決定・実行することにある。
研究員の大橋克已(左)は「新しい技術を取り入れ、持続的発展のために、
技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を生み出していく」、
と技術経営を説明した。淺野昌宏理事(中央)、杉本晴重理事(右)。
日本の長期的視点で開発投資を行うことで、競争力や企業価値を高める経営手法
技術経営の歴史はどこから始まっているか。60年代米国のアポロ計画の際、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校における技術マネジメントの研究にあるとされる。 その後、米国は、財政赤字と経常収支赤字の双子の赤字を抱えて苦しむが、日本を始めとした海外諸国の攻勢もあって、国内産業の国際競争力の回復が急務であった。
そのための人材育成が1980年代に入って提唱され、その流れでビジネススクールを始めとした大学院の高等教育改革が行われる。まずは先のマサチューセッツ工科大学スローン校にビジネススクールの派生的コースとして技術経営コースが1981年に設けられた。
同校は日本の製造業研究にも実績があった。当時はハーバード大学教授のエズラ・ヴォーゲルが執筆した著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年出版)を教訓に、日本の持つ生産技術を中心とする高度な製品開発能力や、長期的視点で開発投資を行うことで競争力や企業価値を高める経営手法を米国産業界に取り入れることが米国産業界を復活させる手段として取り込まれた諸政策の一つともなっていた。産業界の中で、何かが欠けていることが研究対象となって取り組んできた。
基本構想を持ち、戦略性を持った経営管理が企業価値を向上させる
日本の経営を米国が認め、研究した。その時に、日本企業が実践していたジャストインタイムなどの生産管理手法、TQCを始めとした品質管理手法などを研究し、形式知化して体系化したものが米国で技術経営教育プログラムとして昇華された。豊富な技術資産を持ちながらも、部分最適に終わり、全体最適として昇華しなかった反省もあり、その技術資産を纏め上げて企業価値を向上させる経営力が技術経営の目指す方向とされた。
不確実性の経済環境の中でしっかりした基本構想を持ち、戦略性を持った経営管理が企業価値を向上させるものとの認識が米国産業界に拡がるようになった。
工学的な観点で企業経営(技術経営)の教育・研究が行われていなかったと反省
日本では、これまでの経営は終身雇用を前提とした新卒定期採用による年功序列制度、OJT等による社内教育、稟議制度による意思決定、企業内組合による労使一体制度、定期人事異動による部署間移動によるゼネラリストを養成する人事制度や、生産現場では制服の制定による社員の一体感の形成、福利厚生では社宅や社員寮を配置することで異部門、年次の違う社員との人的交流によるインフォーマルな人的情報ネットワークの構築機会の設けて企業文化の構築を無意識のうちに実践してきた経営手法であった。
科学的ではないが、日本の経営手法でやってきた。
これらの制度(日本的経営)を学問として研究する部門が工学系で確立されておらず、経営工学、管理工学や生産工学の分野に細分化されて、社会学や経営学の一部として個別に研究されているだけであった。1990年代より米国経済の回復の背景に米国産業界が復活する一方で、日本の産業、特に、製造業がバブル景気をピークに衰退の方向に向かったことで、工学的な観点で企業経営(技術経営)の教育・研究が行われていなかった反省が出てきた。
そこで、2000年代初頭より経済産業省が主導して「技術経営人材育成プログラム導入促進事業」が提唱された。「技術を事業の核とする企業・組織が次世代の事業を継続的に創出し、技術発展を行うための経営」と定義し、この施策を契機に2002年から技術経営に関した大学院の開設が相次いだ。
日本における大学院における技術経営教育
現在、日本の大学院では、新しい技術で製品やサービスを市場に対して創出していくテクノイノベーターの輩出を目的とし、研究開発、製品化やサービスの創生、製造・生産、販売・マーケティング、資金調達、人材育成、知財・特許戦略、企業協業などの考え方を研究する。
現在の技術経営教育は大学院によって大きく異なっている。それは、
(1)経営工学や生産管理を中心とした狭義の技術経営教育を行う大学院 、
(2)ベンチャー企業や新規事業創出を中心に技術経営教育を行う大学院、
(3)知価値創造による企業活動のイノベーションを主体に技術経営教育を行う大学院、
(4)イノベーションを国家や社会の観点で技術経営教育を行う大学院、
に大別される。
小松の坂根氏の私の履歴書を読んで感じたことは、経営の中でいかに技術経営的な発想に気が付いて、組織の中でいかに会社の中で活用していったかを書いていた。私も会社での40年間の中で、思い当たることもあった。
技術経営を学ぶことが実学として経営の中に受け入れられているのかという疑問。
2番目に技術経営が科学的なものとして信頼されているのだろうか。技術経営的な手法ややり方、考え方がマネージの中で生かせる。
3つ目に、技術経営は大学で教えられるのか。学んだひとを会社でどう生かすか。
3.2 小平の考える技術経営
技術のブランドを構築、そのブランドづくりは社長の仕事
西河技術経営塾は、西河塾でなく西河技術経営塾なのかを整理する。経営者が理解しなければならない技術経営について、「技術」を意識して書き出してみる。
(1) 「技術」の存在を認識する
コトづくり、モノづくり、その経営は技術が支えている。経営者は自社の技術の存在を認識することが重要だ。誰が技術を持って会社を支えているかを分からなければならない。
(2) 実現にあたって必要な技術の棚卸をする
事業計画、中長期計画を作成するために、経営目標を設定し、経営戦略を立案し、戦術を考え自社の戦力を再考する。実現にあたって必要な技術の棚卸をする。不足する技術は、開発しなければならない。経営を支えるエンジニア(技術者)の存在がある。
(3) コトづくり、モノづくりを具現化するには、技術が必要だ
不足する技術を開発するには時間が掛かる。その取り組みを決めるのは経営者である。開発に人、モノ、金を投入することになる。技術開発の目途が立たないと、商品化に着手できない。
(4) 技術と市場とを相互理解
マーケッターは自社の特徴的な差別化技術を知らなければいけない。エンジニアは、マーケット(市場)を理解し、顧客と対話が出来なければならない。技術は競合に勝つための源泉となる。開発した技術で付加価値を高めることが出来る。
(5) 塾生への代表的メッセージ
「差別化の源泉に技術がある。技術を使って強みづくりをする」「中長期計画で技術開発にとりくむ」「コスト競争力を支える技術の存在」「新規市場や新規ビジネスの創生にあたって、技術的な特徴を顧客に説明する必要がある」「技術のブランドを構築する。ブランドづくりは社長の仕事である」ということをもって技術経営としている。
3.3 西河の考える技術経営
経営者はリスクを含め、全職場の状態を常に頭に入れておく
西河理事長が社長になった時に作った「社長の仕事20ヶ条」の分析を行った。
西河塾では日常的に出てくる問題が、経営学では出てこない。技術経営では重要だと思われる問題を8項目挙げた。
(1)出金を抑える意識を強く持つ。無駄な出費をしない。業者の言いなりにならない。当社の原価低減意識を強く持つ。お金は有効に使う。入金を早くする。
(2)販売状況を常に頭に入れ、値下げ等早期販売の手段の指示。
(3)当社建物品質のチェックを行う。(仕掛を減らす)
(4)社員の動きを全て把握する。
(5)全職場の状態を常に頭に入れる。リスク先行指示。
(6)社員が働きやすい環境を作る。
(7)社員の堕落する様な考え方は許さない。いつも厳しく。
(8)常にスピード。
3.4 鈴木の考える技術経営(MOT)について
(1) 競争不参加、競争参加、競争優位の区分
企業にも3段階あると思う。
「競争劣位・競争不参加」の企業、中間的に競争に参加する企業、競争優位に立つ企業がある。ポーターによると「競争に参加する企業と競争優位にある企業とでは異なる」という。競争しなくても良いような、競争優位な企業と競争参加しなければならない企業とは違う。
競争優位にある企業は、新しい技術やイノベーションを市場化することが出来る。
(2) MOT-1.0とMOT-2.0
今まで競争に参加することが出来なかった企業に少なくても市場の技術を使って参加することが出来るような能力を付けてもらうのが、基本的なMOTである。
"New to the firm"とは自分の企業にとっては新しいが、市場では一般的なもの。
"New to the market"とは、世界では初めて、日本初というようなもの。
MOTの基本的なことは、市場にある技術を自分の会社でいかに使うかという話で、その能力を付けるための教育に塾では取り組んでいる。 これをMOT-1.0という。
MOT-2.0は、世界で初めてとかで、誰もやっていないことをイノベーションとして実現する。自前のR&Dとか高い吸収能力を持つとか。それに必要な資金調達交渉力等の高度な知識とか、知財戦略とか、産学連携とかを必要とする。MOT-1.0に属する企業にとっては余り必要としない。
(3) 組織の知識能力
組織能力は、4段階で表すことが出来る。
第1に認識能力で、外部に価値ある知識(暗黙知・形式知)が存在することを認識する能力。ある程度の自前の知識ストックやフイルタリング能力、適切な機会が必要である。
第2に獲得能力で、外部知識そのものを入手する能力である。適切な資金や時間が必要になる。
第3に知識の同化・変換能力で、外部知識の本質や、それが利用されていた状況に関する理解する能力で、自らのニーズに合わせて必要な部分を変換し、同化する能力をいう。
第4に活用能力で、獲得し、同化した知識を実際に自らのビジネスで利用することが出来る能力で、さらに発展させあらたな知識を生み出す。
加納氏のハイテクベンチャーを西河塾では対象にしていない。西河塾長と話していても元々それをやりたいのではないか。 MOT-2.0を教えないとグローバル社会で、優位に立てない。
<意見交換>
山中:なかなかMOT-2.0に取り組めない。マネジメントが出来てない。
小平:MOT-2.0に関する仕様書がつくれないか。
鈴木:西河技術経営塾のよいところは、演習で実践してみることが特徴であると思う。MOTスクールは、知識を教えても実践をしていない。
大橋::MOT-1.0とMOT-2.0の母集団からすると、ほとんどの中小企業がMOT-1.0ではないか。そうすると、1万分の1程度しか、競争優位の状態になっていない。
小平:鈴木先生が提起位した、MOT-1.0とMOT-2.0において何を学ぶべきかを定義しても良い。
杉本:大企業においてもMOT-2.0の教育は取り組み難い。