西河技術経営塾・上級コース検討研究会
2015.01.29 上級コース検討研究会(第5回)
<議事録> (125KB)
研究員の鈴木潤政策研究大学院大学教授からの提起を受けて「MOT 1.0」「MOT 2.0」について、研究会メンバーから報告があった。
1.「エネルギー環境変化とエネルギー消費に関わるイノベーション」
エネルギー・MOT 2.0:前田光幸高知工科大学非常勤講師
MOT1.0が、"New to the firm", その会社にとって新しい。
MOT2.0は、マーケットにとって新しい。
エネルギーの世界でみて、日本はエネルギーの無い国であるので、省エネ、再エネ、新エネといわれ、脱石油、脱炭化水素、そのようなことを取り組んできた。
今は脱原発で、省エネ、再エネ、新エネである。
提出した資料はエネルギーインパクトのあった事柄を書き出した。エネルギー産業にとって大きなインパクトがあったことを挙げた。インパクトは、エネルギー自給、価格、経済にインパクトがあった事柄で、5が一番で、それによって社会の意識が変わった。エネルギー消費のイノベーションに関しては、日本はトップクラスである。
全般でいうと、石油地下備蓄、省エネボイラー、ヒートポンプ、見える化、コジェネ、EMS、PV(太陽光)、・PCS、LED。産業・電力では、LNG チェーン、LNG 冷熱利用、CC(コンバイン・サイクル:ガス火力)、IGCC(インテグレーション・オブ・ガスフィケーション・コンバイン・サイクル)、JIT製造。業務用では、ESCO。住宅では、断熱建材、二重窓、FC(家庭用)。輸送用では、リーンバーン、HBV、二次電池、EV、高効率エンジン、FC(クルマ)である。
IGCCとは、コンバイン・サイクルのなかでガス化する。アスファルトをガス化して発電効率を高めることに取り組んだ。難しい技術である。日本は、恵まれないエネルギー環境の中で色々な開発に取り組んできた。そのお蔭で日本のエネルギー消費技術は、世界の先端を走っている。
「エネルギー消費のイノベーションに関しては、日本はトップ
クラスである」と話す前田光幸高知工科大学非常勤講師(左)、
隣は柴田智宏研究員(元日鉱マテリアル常務取締役)(右)。
2.森部好樹の選んだ7名の起業家7社のMOT度
淺野昌宏理事(アフリカ協会副理事長、元丸紅ネットワークシステムズ㈱社長等)
森部好樹の選んだ7名の起業家について、MOT2.0が当てはまるかを評価した。
(参考:森部好樹(2014)『日本人の生き方を変える7人の起業家』、日経BP社)
(1) リノべる
中古マンションのリノベーションに必要な物件、内装、デザインなどをワンストップで提供する「リノべる」というサイトを運営している。顧客ベースをプラットフォームとした事業展開を企画している。
MOT1.0のところは全て該当するとおもわれるが、MOT2.0のところのマーケット・イノベーションはないし、R&Dや高い吸収力は無いし、知財戦略・産学協同、アライアンスも無い。したがって、MOT1.0であるとみた。
(2) 日本介護福祉グループ(茶話本舗)
夜間対応型小規模デイサービス。民家をリフォームして、介護のコンビニ化を図っている会社である。お年寄りは、環境の変化に弱いので、実際の家に住んでいる環境で介護してあげるべきだと。「既存の施設は、リロケーションダメージがある」という思想のもとに運営されている。
「バリアフリーの中でいくらリハビリしても、家に帰る能力は養われない。したがって、普通の民家で対応すべきである」との考えで運営されている。
これはMOT2.0のところのマーケット・イノベーションには合致すると考える。自前のR&Dは無い。
「事業成功のための3要素として、資金とコンテンツと人脈が大切であると言っている」
と報告する淺野昌宏理事(左)、隣は杉本晴重理事(元沖データ代表取締役)(右)。
(3) エボラブルアジア
ベトナムで300人のSEを雇用していて、日本企業向けのシステム開発をメインにやっている。
「ラボ型」ソリューションで高付加価値を提供、「ラボ型」とはクライアント毎に専属の開発チームを提供し、チームに対する作業指示や進捗管理をクライアントが直接行う方法である。システム開発部隊をリースに出すという考えで取り組んでいる。新しい形のSEの使い方である。
これはマーケットイノベーションという。
(4) オレンジアーチ
オレンジアーチ、「イーサロン」というネットで顔の輪郭を抽出して髪型をシュミレーションするアプリを提供しているサービスである。専門は画像解析のソフト開発で大学の研究室との連携でやっているので、MOT2.0といえる。
(5) レバレージズ
IT系の人材紹介事業である。看護師の求人サイトとか、どんどん新しい分野のサイトを構築しているが公表せず、アドテクノロジーにより配信範囲を絞り、対象外の人には極力見えない様にして、シェアを確保したうえで、2-3年して育ったところで公表する。フリーランスのSEのデーターを数万集めている。これは、マーケットイノベーションといえない。
(6) DYM
ベンチャー企業向けの新規採用支援を行っている。直接あって面接をし、企業のニーズに合った人財を紹介している。これもマーケットイノベーションといえない。
(7) アルテックジャパン
販促物などの開発、企画、デザイン、製作をやっている。日本、中国、フィリッピンと3極オペレーションで24時間、365日体制で取り組んでいる。プロモーションには定評がある。
これもイノベーションといえるのか疑問である。
MOT2.0イノベーションといえるのは(2)(3)(4)(5)である。
この本を書いた森部氏は、事業成功のための3要素として、資金とコンテンツと人脈が大切であると言っている。コンテンツは、起業家が作って来るが、製造業の資金は億単位で必要であったが、最近のITでは、そんなに資金がかからない。その資金を供給する人も出てきた。自分は販路や人脈で若者を支えていこうと考えた。
3.MOT-2.0 について:杉本晴重理事(元沖データ代表取締役社長)
イノベーションにおける米国の高いパフォーマンスについて
鈴木先生の提起に経験を踏まえてコメントしたい。「イノベーションにおける米国の高いパフォーマンスについて」気になってきた。
(1) 企業家精神に富んだ経営
豊富な経験を持った経営のプロ、豊富な人脈
(2) 順応性の高い労働力
流動性ある多国籍プロ集団、ハングリー・チャレンジ精神
(3) 良く発達した株式市場
入口(リスクをとったベンチャキャピタルによる資金供給)と出口(IPO、M&A等)
(4) 国家による研究開発活動への大型投資
IT産業(国防総省)バイオテクノロジー産業(NIH)
(5) 社会の流動性、開拓者精神尊重
努力する人には誰でもそれなりの上昇チャンスがある。
米国は格差社会ではあるが、失敗を恐れず、けなさず、たたえる風潮。
チャレンジしないことを後悔する。恥に思う。
失敗しても致命傷にならない社会システム。
(6) 産学連携
特にシリコンバレーでスタンフォードではいろいろなことをやっている。学におけるシーヅの創出と、産と連携した商品化、事業化研究活動。更に共同した事業化。
米国と比較した日本における課題と対策案
(1) 企業家精神に富んだ経営
日本にも経験豊富な経営者はいるが、起業を経験し、更に複数企業の経営第一線の経験者は少ない。人脈も限定されている。
→これからか、現シニア層の活用を含めてこれから。
(2) 順応性の高い労働力
大企業中心にプロ集団はおり、課題は流動性が無い為に社会全体で活用できていない。
→外部での活躍機会を増やし、流動性を増す施策が必要。外人混成も検討しなければならない時期にきている。
(3) 良く発達した株式市場
日本ではお金の問題については、入口問題が大きい?
→日本のVC、政府支援制度の評価。
(4) 国家による研究開発活動への大型投資
日本でも半導体、バイオ、ロボット分野等それなりの投資はされてきたが、近年、その投資対効果は顕著でなくなった。投資額の多寡だけでなく、マネージメントや戦略の問題はないのかと思う。
→国への期待、依存心が高すぎるのではないか。(国の役割見直し)もっと自立心と民間連携、産学連携などの強化必要であると思っている。
(5) 社会の流動性、開拓者精神
高度成長期には誰にもチャンスがあった。バブル崩壊後の世代は、ビジネス環境も悪く成功体験乏しく、夢を持ち難い状況である。一方で食べるには困らない状況で開拓者精神が下がっている。
→歴史的、文化的な面もあるが、やる気があり努力している人にはチャレンジの機会を与える。人材バンクとか、産学連携PJとか考える。
→チャレンジして失敗しても再チャンスする機会を、チャレンジして成功した人には高い評価を。
(6) 産学連携
日本もそれなりに取組んでいるだろうが、実績少ない。研究者はいるが企業経験者、経営経験者が少ないあるいは、参加する場が少ないのか?
→事業化を目指した産学共同の仕組み、研究会
4.MOT1.0とMOT2.0を考える:小平和一朗専務理事
4.1 はじめに
スタートアップ企業の経営者を塾で育成するのは難しいのかもしれないという疑問に答える
「MOT-1.0とMOT-2.0では、経営者教育の違いがある」について整理する。 西河塾は「MOT-2.0に取り組めるのか」という課題がある。スタートアップ企業の経営者を塾で育成するのは難しいのかもしれない。その疑問に答えるためにMOT-1.0とMOT-2.0の整理を進める。これを「技術経営」「日本型経営」という切り口を含めて対比してみる。
4.2 MOT-1.0
経営能力とは、エンジニアリングを理解し、マーケティングを理解したうえでのビジネスモデルの構築と中長期計画を立案し、実行することができる力
(前提条件)事業継承または事業立上げで、すでに5年以上社長経験をしてきている経営者で、経営学を学ぶことで、持続的成長をする会社へと改革し、安定した収益をだすことが出来る企業とするために学ぶMOT教育。
教育という立場では、以上のように定義した。
(1)"New to the firm"とは自分の企業にとっては新しいが、市場では一般的なもの。
(2)今まで競争に参加することが出来なかった企業に少なくても市場の技術を使って参加することが出来るような経営力を付けてもらうのが、MOTの基本であるという前提。
(3)市場にある技術を自分の会社でいかに生かすか。その生かすための経営能力を付けるための教育に現状の西河技術経営塾では取り組んでいる。
(4)経営能力の育成とは、エンジニアリングを理解し、マーケティングを理解したうえでのビジネスモデルの構築と中長期計画を立案し、実行できるための基礎力をつけるための学習である。
(5)経営経験があるので、経営の基礎的知識は持っている。経営管理の基本に金銭管理があることと、未来を向いた事業立案力を養成する。
(6)学ぶべきMOT主要課題を表5.1に整理した。
4.3 MOT-2.0に関する技術経営教育
経営者を教育する視点では、30人、100人規模になると、MOT1.0もMOT2.0もあまり変わらない
(前提条件)革新的新技術にもとづく商品の事業化を行う起業家に対するMOT教育。
(1)"New to the market"とは、世界では初めて、日本初というようなもの。
(2)世界で初めてとかで、誰もやっていないことをイノベーションとして実現する。
(3)自前のR&Dとか高い吸収能力を持つとか、それに必要な資金調達交渉力等の高度な知識とか、知財戦略とか、産学連携とかを必要とするが、MOT-1.0に属する企業にとっては余り必要としない。
(4)ここで求められる経営能力は、技術を商品化するまでの具現化技術である。商品化見通し、商品としての安定性、再現性に達しているかのレベルまでの確認をきちんとやる事が最大のマネジメントである。
(5)起業家から事業家への基礎教育は必要であるが、一般に技術開発以外の基礎知識を身に着けていないことがある。経営の基本であるお金のマネジメントができないだけでなく、嫌いな場合もある。経営者としての心構え、金銭管理、事業計画、組織(チームとコミュニケーション)など、基礎教育となる。
表5.1に整理した。
従業員規模で10人以下、30人程度、100人以上の3区分とした。
まず、MOT1.0に関連して、30人程度のなると、社長一人で開発している状態でもないので、マネジメント力が求められる。このレベルでは社員が少ないので、組織論も法もいらない。
M2.0に関連して、(経営指導をする)エンジェルがいる(M2.1E)ことで、起業家の経営的な知識は無くても取り組めることになる。
整理を進めての気付きであるが、経営者を教育するという視点では、30人、100人規模になると、MOT1.0もMOT2.0もあまり変わらないのではないかと思えた。
表5.1 MOT1.0とMOT2.0のMOTカリキュラム(主要項目)