一般財団法人アーネスト育成財団

HRM研究会

2017.7.14 準備会合(第7回)

打ち合わせメモ (1.83MB)

平成29年7月14日、財団にて第7回HRM研究会準備会合を開催した。本準備会合は「グローバル研究会」での議論の中から組織や人財に関わる問題を抽出し、現状読み切れていない部分を浮き彫りにし、次の研究課題の抽出を目的にしている。今回は、座長の小平和一朗専務理事から『グローバル人財考』という題目で、また前田研究員から『「アジア公共交通インフラの構築」における日本的経営・人財の優位性』』に関する問題提起があり、委員相互で活発な意見交換がされた。

講演する前田光幸研究員

講演する前田光幸研究員(左から3番目)

1.グローバル人財考:小平専務理事
小平和一朗 専務理事

一般的なグローバル市場の区分として、欧米も含めたもの、新興市場(BRICS)だけを対象としたもの、日本だけという3分類をした。それぞれに人財は変わる。人財区分として、現場作業者、マネージャ、事業責任者、社長に区分した。
当財団は経営人財を育成していることもあり、基本的には、経営人財のあるべき姿、経営の仕方が書いてある。ここにAやBと書いたが、どちらかと言うと欧米型の経営についての議論には色々な壁があって、人財育成をどうするかの議論に入っていない。(図1)

図1

図1 グローバル人財の区分

ページの先頭へ戻る

グローバル人財(下斗米のコメント)

座談会の中で「グローバル人財とは誰か」という問いに対して、「自社の事業展開を行う上で、市場を国内外で分けて考える「意識」の壁が無い人」と指摘した方がいた。国内外を分けて物事を考える必要は無いのではないかということで、国境無きという意味だと思う。「グローバル人財というのは、経営者や経営幹部の仕事であって、一般従業員や労働者とは区別して考えなければいけない」という指摘があり、非常に勉強になったとある。

グローバル人財を答えとしてまとめると、
(1) 自社の事業展開を行う上で、市場を国内外で分けて考える「意識」の壁が無い人。
(2) 営者や経営幹部の仕事であって、一般従業員や労働者とは区別して考えなければならない。
改めて考えると、経営幹部までの事をどうするかという事になるから、現場・工場労働者をどうするのかは議論の対象にはなっていない。

グローバル人財の育成(下斗米のコメント)

下斗米から更にグローバル人財の育成について「経営者や幹部のことである」「アメリカでは、大企業、中小企業、ベンチャー企業の三重構造に分類されている」という指摘があった。
また、「破壊的イノベーションに挑戦するプロジェクト組織(NTBFs)があるという話だが、この様に外国との比較研究をするのであれば日本の特質も見えてくるのではないか」との意見が出された。

米国、専門科目は大学院の役割

小平(座長):米国では、大学でリベラルアーツをしっかりやっているが、日本の現状では難しいというはなぜか。

下斗米秀幸(敬愛大学経済学部専任講師):大学のカリキュラムの中で重視されているかというと、それよりはむしろ社会に出る準備に重きが置かれている。

小平:一般教養や社会人としての基本的な教養などの方が優先されているということか。

下斗米:そうである。アメリカの大学は4年間で専門科目までやらない。専門科目は、大学院の役割という意識があるが、日本の場合は3、4年生で専門科目が入っていて、駆け足でやらざるを得ない。しかも3、4年生になると殆ど就職活動で、専門もままならない。大学院に行ってもしょうがないという考えが日本では根強い。

杉本晴重(理事):日本も技術系は大学院を出ていないと、最近はダメだという声がある。昔はあまり関係なく差が無いと言っていた。

ページの先頭へ戻る

2.アジア公共交通インフラの構築における日本的経営・人財の優位性
講師 前田光幸研究員

今日のテーマは、アジア公共交通インフラの構築、要するに鉄道の構築である。日本企業は、グローバル展開で苦戦している。視野を世界に向けてきたが、特に15年くらいは、新興国企業にコモディティ市場で負けて、日本製品は上手く行っているものもあるが、オーバースペックで値段が高くて売れない。あるいは欧米は違う優位性を発揮して、欧米の巨大企業に力負けしている。
アジア市場はモノについても、何についても膨張している。特にインフラが不足している。エネルギー・水・都市基盤・環境・交通・通信・治安等である。この公共交通分野で日本企業は、欧米巨大企業とどう戦うか。鉄道のビッグ3は、ドイツのシーメンス、フランスのアルストム、カナダのボンバルディアで、グローバル市場を牛耳ってきた。
日本企業はここ5、6年で取り組みはじめたが、世界的なネームバリューが無い。どう戦うのか。
中国には巨大な鉄道産業があり、南車、北車が2年くらい前に中車として一つになった。これは国内市場が巨大で、売上げで言えばビッグ3を足した規模である。中国は物量作戦、国策で来る。資金はある。しかも採算を無視して安値で入札する。工場はその国に作るが労働者は中国から持ってくる。終わったらそれで終わり。

アジア公共交通インフラ事業と日本企業

バンコク、ホーチミン、ハノイ、ジャカルタ、デリー、マニラ、上海、北京、シンガポール、香港、台北、東京の交通渋滞、どこの都市を見ただけでうんざりする。
こういう状態が年々ますます悪くなっている。昔はクルマの数も今ほど多くないので、混んでいると思ってもさほどでは無かったが、どんどんクルマが増えて、道を作っても余計にクルマが溢れるという状況である。
バンコク、ホーチミンやハノイはやたらバイクが多い。ジャカルタもそう。デリー、マニラ、上海、中国は道をどんどん作っているが、道を作るよりもクルマの増え方が速いので、慢性的な渋滞になっている。
北京の冬は、排ガスだけでは無くて、石炭火力によって非常に空気が悪い。
シンガポール、香港、台北、東京は、アジアでも割りとすっきりしている大都市である。何が違うのか。それは、公共交通の発達、鉄道・メトロ・バス。それから運行のノウハウが進んでいる。トラックやバンなど商用車の運行効率。統計は持っていないが、たぶん日本は相当に運行効率が上がっている。クルマの運行効率が良くなって、同じ荷物を運ぶのも減る。これはITの進化ですね。それから排ガス規制がある。
それから、東京は明らかにクルマ離れの影響が出ている。昔ほど混まなくなった。あるいは都市機能を分散したり、迂回の幹線道路を時間はかかるが作ったり、建設車両が昔は物凄く多かったが、それも減ったり、道路工事の時間やりくりなど。色々な要因で、上手く行っている。
バンコク、ホーチミン、ハノイ、ジャカルタ、デリー、マニラ、上海、北京らの都市は出口がまだ見えない。いったん都市が出来てしまったのだから、いまさら鉄道を引くにも地下鉄しかない。あるいは道路の真ん中に高架を作って、その上を「ゆりかもめ」みたいな軽鉄道を走らせる。そのような訳で、なかなか進まない。

ページの先頭へ戻る

日本人・日本的経営の優位性発揮の余地大

日本人のビジネスビヘイビアやスタイルは、アジアで受け入れられる可能性は十分高いのではないかというのが、最後のまとめで、日本人・日本的経営の優位性発揮の余地は大である。いままでの説明で抜かしたかもしれないが、タイに欠けているものは、資金が無い、技術が無い、人財がいない、意欲が無い、知恵が無い。
この5つがあれば何とでもなる。資金は借りたり、最近はPPPといってGovernmentと国際機関と企業が出し合うやりかたがある。タイでは、これを色々やろうとしているが、最後は全部依存性があって、他力本願みたいな感じである。図2は、欧米人のほうが日本人よりも良いということは無いということを示している。
白星印が優位のところ、黒星印が問題のところである。知恵のところでみると。現地人・現地主体が総合的に思考できるのか。例えば、鉄道を作ったらその地域に人が増え、色々なショッピング、住宅、工場団地、学校、文化施設など都市開発や地域開発が必要になる。そのようなことを主体的に考え、行動ができますかというのが疑問である。
日本企業にはコンサルの人員不足というのが問題である。コンサルの企業はあるが、1社しかないので手が回らない。日本企業・グループは、このようなメリットがあると相手に分からせるのが下手というのが問題である。

図2

図2 日本人・日本的経営の優位性発揮の余地大

ページの先頭へ戻る

現地人・現地主体のところでは、資金のところでは、最近はPPPが主体になって来ている。
技術では、モノを作るのは外資に依存、メンテをどうやってよいか分からない。運営は一応自分でやる。技術移転を期待している。
日本の鉄道メーカのハードは、品質は良いけれども高い。メンテにはあまりコストはかからない。運営ノウハウ移転をし、教育をする。技術移転の進め方は、日本の課題にしているが、これはまだ良く分かっていない。現地人・現地主体は、技術移転を期待しているが、日本のメーカは、誰に技術移転するのか、技術移転の相手がいないじゃないかという。自動車は30年かかっている訳で、なかなか今すぐに、こういう受け皿がある、トレーニングしてくださいとはならない。大学の中でそのようなことを始める手もある。
欧米のビッグ3はどうかというと、初期コストは安いが、メンテは高い。また技術移転はやる気が無い。
人材がいるのかといえば、現地人・現地主体のところでは、鉄道の軌道を作ったりは出来る。メンテは分からない。運営は何とかやる。
日本は、人財育成はやる気はある。タイ人の留学生が何万人もいるが、それをどうやって活用するのか。これは想像だが、欧米の場合は留学生をそれなりに使っている。
意識は最初の知恵とよく似ているが、現地人・現地主体のところでは、非常に消極的・受身で外資依存。外資依存するとしても、ビッグ3に任せるとえらいことになるぞという事が大体分かってきた。
日本と一緒にやりたい気持ちがあるが、日本はまだ腰が引けている。

一番下に書いているが、客観的には日本企業の優位性は大きい。現地の期待は増大傾向。各鉄道関連メーカにしても運行会社にしても、人財を積極的に投入しなければいけないが、トップクラスを出していない。あるいはトップクラスは出しているが、20人必要なところに1人くらいしか出していない。トップクラスを10人出しなさいよと思うが、トップクラスは国内の仕事をやらせている。国内の仕事はトップでなくてもセカンドクラスでできる。あるいは、セカンドクラスとトップクラスの比率は、海外のほうがトップクラスの必要が多くて比率は高いほうが良い。国内はトップクラスが少しいればよい。

それから長期的な視野が必要で、短期利益にこだわってはいけない。本当に儲かるのか、3年5年では儲からない。20年30年かかることを考えて腹をくくらなくてはいけない。それから先ほど言った地域開発もやらなければいけないので、デベロッパーも入れて一緒に出て行く。それから、国内異業種との協業で、色々な分野との協業をして幅広い提案が出来るようにする。大事なことは、頻繁に、かつ持続的に、幅広い面で相手国とコンタクトしていく必要がある。政府ベース、市、現地企業、大学ベース、向こうのコンサル、それから現地の日本社会も活用すべきだ。

タイには5万人くらい日本人がいる。クルマ屋さんが多いし、いろいろな産業の人が出ている。商社ももちろん多い。現地の日本人はタイの中で相当なネットワークを持っているから、そういったものを今まで以上にどんどん活用して。もちろん今も活用しているのだとは思うが、まだまだ少ないのではないか。

日本商工会議所の会頭の役割が商事と物産で交代に回ってくる。そういった強い人脈を、鉄道メーカ、車輌メーカなどは使っているとは思うが、もっと思い切り使わないと、インフラは相当に息の長い仕事なので、モノを売って終わりという話ではないし、プラントを作って終わりいう話でもないので、コンタクトを幅広く、長くやる必要がある。

アジアインフラ事業に大事な「意識の持ち方」

・―つづつ、めげず粘り強く、前を向いて、幅広いネットワーク、現地人の目で、長期的な利害の物差しで考える。

・何事も、まず試行、分析、理屈は適当に打ちきれ。それからトップに本腰を入れさせないと進まない。
・意思決定の権限を取る。長期的にはその責任者が責任を取る。
・それから、良い人財をどんどんと送っていけば、人は必ず育つ。
・色々なトラブルや失敗はするが、向こう傷は褒めてやらなければいけない。

・グローバル人財やらどうのは関係ない、人財に内外の区別なし。ただし、海外にトップクラスを出す必要がある。

ページの先頭へ戻る

ページのトップへ戻る