地方創生研究会
2023.12.08 地方創生研究会(第8回)
企業同士が協力的なのは間接互恵が働くから
令和5年12月8日、第8回目となる地方創生研究会(座長吉池富士夫)を財団内会議室にて開催した。日本経済大学大学院の森下あや子教授を迎え『長寿企業の持続戦略 —地域密着の洗練された協力戦略— 』と題し報告を受けた。
講 師:森下あや子(日本経済大学大学院教授)
参加者:吉池富士夫(座長、芝浦工業大学理事)、
西河洋一理事長、
小平和一朗専務理事、
淺野昌宏理事(アフリカ協会副理事長)、
山中隆俊理事((株)メディカルパーフェクト代表取締役社長)、
石井唯行((株)ワンズディー代表取締役)、
小坂哲平(小坂建設代表取締役)、
渋谷加津美事務局員
長寿企業の持続戦略 —地域密着の洗練された協力戦略—
講師(森下)今日は地方創生という文脈で長寿企業の持続戦略、地域密着の洗練された協力戦略について話す。最近長寿企業が有名になってきた。
日本の長寿企業は5万社で世界一
日本の長寿企業数は世界一と言われている。千年以上続く企業が20社位ある。五百年が百四十七社百年以上は4万3千社位。小さい企業も入れると5万社位はある。
国際比較の場合は色々な条件があり数字は変わるが、百年以上は日本がダントツ1位だ。(図1)
事例として震災後のある酒造メーカ、キッコーマンと城崎温泉を紹介する。城崎温泉に関する研究では海外の学会でも注目をいただき学会で賞(注1)を頂戴した。
東日本震災後の企業・酔仙酒造
酔仙酒造は震災前には陸前高田に本社があった。震災後に大船渡に本社が移る。酔仙酒造は品評会で賞を取るような地域では優秀な酒造会社である。酔仙酒造は「気仙地方」にあった8軒の造り酒屋が1944年に合併し誕生した。
震災で7名の従業員が亡くなり建物と設備も津波で全部なくなった。震災から1年後に社長にインタビューした。「何とか歴史だけは繋ぎたいっていう思いで頑張っている」と答える。
地震のときにこの会社を救ったのが岩手県で有名な酒蔵会社の岩手銘醸である。岩手銘醸という老舗の酒蔵が援助を申し出た。
一つの酒造場所には酒の製造免許が一つしか与えられないので岩手銘醸は一関市千厩(せんまや)にある工場の製造免許を一時的に酔仙酒造に譲り、酔仙酒造がその場所で酒づくりを始めた。
岩手銘醸の社長は「これ以上岩手県の製造者数がなくなってしまったら、切磋琢磨していけなくなる。業界全体が全部駄目になってしまう。1社でも、残そうと考えた」と言った。
海外では「なぜ助けたんだ」という意見が出る。一番がダメになれば自分が一番になれる。しかし酔仙酒造の社長は「自分だけ1人生きていってもあまり良いものにはならない切磋琢磨してこそ」という。
図1 100年以上続く企業(国際比較)
(注1)Asia Pacific Family Business Symposium 2023にて”Best Paper Award”を受賞した
8家で創業・キッコーマン
高梨家が1600年代に野田の地で醤油製造を始めた。茂木の6家と高梨と堀切家の8家が野田醤油(株)を1917年に設立した。
ライバル関係にあった複数の家族が事業に携わると、必ず主導権争いが起こる。能力のない人が経営に携わることだけは避けたいということで、キッコーマンには不文律がある。創業家の8家から入社できるのは1世代に1人。つまり兄弟が2人いても1人しか入社できない。創業家であっても役員になる保証はない。役員になっても社長になれる保証はない。適任者がいれば創業家出身者にこだわらない。従って創業家でない社長もいる。この不文律を今も守っている。こうなると各家は優秀な人材を輩出するために教育に熱心になる。どの家庭も教育に熱心だそうだ。また、地域のため、銀行、病院、消防、鉄道も水道事業もやっていた。
人気の温泉地・城崎温泉
城崎温泉、江戸時代には幕府直轄の天領地。平安の頃から身分の高い人が、この城崎温泉に来た。
城崎温泉は千年以上の歴史を誇る温泉地で「古まん」という旅館が最も古い。20軒ぐらいのファミリービジネス企業が三百年以上にわたって営業を続けている。
城崎温泉は特にヨーロッパの人に人気がある。半径5百mの範囲に7つの外湯と77軒の旅館、約40軒の土産物屋や飲食店がある。
JR城崎温泉駅があり川沿いに温泉宿が広がっている。「駅が玄関、道は廊下、土産物屋は売店、外湯は大浴場、飲食店が食堂」というスローガンで客を宿の中に囲い込まず小さな商店でも商売が成り立つようにしている。最近まで土産売り場を旅館の中に持たなかった。今でも定価で売り、安売りはしない。歴史的には内湯を作らなかった。この「駅は玄関、道は廊下」という共存共栄の精神がこの町を救ってきた。城崎温泉は、余り泉源が太くないので、温泉を維持するために内湯(客に開放する旅館内の風呂)を禁止し外湯のみとするという共同体のルールを江戸時代から決めていた。明治時代からは湯島財産区という一種の地方自治体をつくり共有財産である温泉を管理してきた。
講師の森下あや子教授
城崎温泉(出典:豊岡市フォトライブラリー)
質疑応答
(吉池):城崎は身の丈の経営が根付いている。
講師(森下):元気のない温泉は大型ホテルの中に土産物屋からレストランから何もかも抱え込んでいる。街歩きをしない。城崎温泉は地形的に入れなかった。
(吉池):キッコーマンがある野田は田んぼしかない。江戸川と利根川の間の貧しい人たちの集まりの土地。醤油を運河を使って江戸に送った。その出荷量が増えてくると従業員が来る。従業員のために水道も病院も必要になる。そこに工業団地を町として作った。
講師(森下):地域のためでなく、会社のためにですか。
(吉池):住んでる人の70%位は従業員ファミリー。
定住が間接互恵成立の要件
(淺野):間接互恵が成立するためには定住がベースになる。中央アジアは多民族が行き交う。生活環境が過酷な砂漠で定住できない。
講師(森下):繰り返し、ゲーム理論から来ている。繰り返すと変わる。利他主義が生きる。
(淺野):海に囲まれている国は安全である。大陸にあっては、攻め込まれて略奪されてしまう。日本の地図的な優位性は大きい。
(小平):日本には企業レベルでの助け合いがある。企業同士で戦っては駄目である。
(西河):欧米のように競争で企業同士を戦わせたら結局企業は潰れて数が減る。日本人は談合する。談合や忖度は悪いと言うが、共に生きるという点で悪くない。調整して過剰な喧嘩をしないから適正価格で売るとなる。地域が広くなると戦う確率が上がる。小さい町は共生の可能性がある。四万温泉もそうだ。ある程度こぢんまり囲まれた中で皆で巧くやろうという精神を持つと巧くいく。
(西河):鬼怒川温泉は競争で下げて採算性取れなくなり、借金が返済できなくなり、潰れた。
講師(森下):浅野さんの中央アジアの例はおもしろい。協力のモデルで競争と協力をどういう数値にするかシミュレーションしてみる。環境収容力っていうのが、ある負荷の中にどれぐらいの競争する媒体がいるか、その濃度を薄くしてやると強いものだけが勝つ。混み合ってくると協力するやつが勝つ。希薄だと強いものが勝つ。混み合うと裏切るやつは負ける。
談合理論が正しいか
(森下):ヨーロッパで「協力し合います」と発表したら「談合じゃないか」と言われた。
(西河):海外で震災が起きるとスーパー行って奪い合う。日本人は自分の家に残っている米があったら持っていって皆で分け合う。
(小平):日本の強みはそこに。戦って相手を負かすのでなく「あやめてはいけない」「人を駄目にしてはいけない」という倫理観。
(西河):高い値段を提示し、維持するのがカルテルで、話し合い適正価格で合意してやるのが良い。
(小平):生き残るために日本人は話し合って皆でやる文化がある。
(吉池):日本のやり方の原点は武士道とか礼節を重んじる心とかが今にも繋がってる。日本人には、はしたないの風潮がある。
(小平):桃太郎の中で、我々も色々な種族を助け、それぞれの力量を持った人を集めて行動するといううリーダーシップがある。野田のキッコーマンでは8社を戦わせるのではなく一緒にした。飯田グループの6社統合に繋がる。
(西河):分譲住宅の売上では上位である。飯田グループの業種は建築不動産だから10%もいかない。
グループ内で叩き合っても不動産のバリューは上らない。
(小平):その競争は、住宅購入者が不利になるだけ。モノづくりでは競争も必要
(西河):(モノづくりの)住宅建設においては競争も大事である。
講師(森下):競争も大事である。だけど競争だけではだめである。
(西河):グループ内での競争は残してある。6社で全然競争してないかというと競争はしている。
(小平):どこまでカルテルで許されるかは整理できるのでは。
講師(森下):(海外の学会が)協力モデルに賞をくれるぐらいだから海外の人も変わってきている。
(西河):でも日本のコンピュータでないが、ある程度同じぐらいの力を持った企業が最低2社程度いないと衰退する。
講師(森下):競争は大事である。
(西河):競争しては駄目という話ではない。
(小平):カルテル理論がいけないのは、そういう分野では成長を止めてしまうことだ。
(森下):そうですよね。
(西河):適正競争をするには潰れちゃ駄目だ。潰れてしまうと健全な競争をしなくなる。
講師(森下):今の意見を参考に微分方程式を解くといろんな論文が書けそうである。