連載:Africa
(2013.11.15)
(第3回) 安全のコスト
-緊急時の運転テクニック等を学ぶ-
研究員 淺野 昌宏
9月21日に、ケニアの首都ナイロビのショッピングセンター「ナクマット・ウエストゲート」がソマリアのイスラム過激派「アルシャバーブ」に襲撃され、70名近くが死亡するという痛ましい事件が起こりました。犠牲者の方に心よりご冥福をお祈り致します。ここの処、堅調に推移して来たケニア経済に影響する事が懸念され、残念です。
前号では、自動車強盗とのカーチェイスで、難を逃れた話しをしましたが、安全にはコストを掛ける事も必要です。今回は、その切っ掛けになった話をします。
日本人学校長校門前で射殺
前年の1975年8月15日朝9時、夏休み中のナイロビ日本人学校に出勤した浅野邦章校長が校門で賊に射殺される事件が起りました。当時、私は日本人会長を務めており、前日8月14日の夕方に私の事務所で理事会を開き、永らく途絶えていた「日本人学校財団」を復活さる事を決めました。その基金として2000万円を集め、毎年の運用益300万円を校舎の維持管理費として支援する事としました。浅野校長先生は「ああ、これで金の心配をする事なく教育に専念できる。これがもう二・三年早ければよかったのに!」と本当に嬉しそうな笑顔でお帰りになりました。事件が起こったのは、その翌朝の事だったので、大変なショックを受けました。待ち伏せされた強盗にカバンを奪われ、その際に射殺されたのですが、未だに犯人は捕まっていません。
この事件により、邦人社会ではセキュリティ意識が非常に高まり、丸紅ナイロビ支店でも英国のコントロール・リスク社に依頼して、事務所及び社員宅の安全チェック、社員および家族への安全講習会、支店の全運転手に緊急時のドライビングテクニックを受講させる等を一週間かけて実施しました。ドライビングテクニックでは、自動車強盗の見分け方、スピンターンテクニック、ハイウエーの逃げ方、逃げ込み先の選定などを学びました。料金は210万円でしたが、他の日本企業2社と合同で実施したので、私の所の負担は80万円でした。この時の受講内容が9ヶ月後に実践で役に立ち、非常時に備えてコストを掛けてでも訓練をしておく事が大切だという事を身を持って知った事件でした。
基金は今も役だっている
猶、日本人学校財団基金の方は、企業や個人の皆様のご支援があり目標額を集める事が出来ました。今も、この基金は健全に運用されており、ケニア人と結婚した日本人女性の子息への奨学金も出しています。世界各地にある日本人学校の中で、財団基金からの支援があるのは唯一ナイロビ日本人学校だけだそうです。
日本人学校での餅つき風景。中央のハッピ姿が筆者(淺野昌宏氏)