技術経営人財育成セミナー(第3回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

グローバルビジネスにおける技術経営人財

阿部 剛士(あべ・つよし) (インテル(株)取締役 副社長)

日時 2013年2月13日(水) 14:00~16:00 (講演90分、質疑30分)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 セミナーは終了いたしました。
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

パンフレット(71KB)

テーマ:Leadership Challenges for Extraordinary Results

企業にとって重要なことは“Going Concern”であるが、「成長」することも義務である。企業として継続・成長することを前提とした価値を創出するためには将来にわたっての人材開発はもっとも重要であり、事業全体を俯瞰し新事業を草案し実行することができる人材育成は急務を要する。半導体製品の製造と販売を中心する米国インテル社がどのような人材を求め、そして育成しているかの一端を“リーダーシップ”を中心に21世紀に求められるグローバル人材に関して紹介する。

【講師略歴】

阿部 剛士(アベ ツヨシ)氏

職責

インテル株式会社 取締役 兼 副社長執行役員、技術開発・製造技術本部本部長、博士(技術経営)

略歴

1985年インテル株式会社入社。システム開発、アプリケーション・エンジニアなどを経て広報室室長、インテル・アーキテクチャー技術本部長、マーケティング本部長を歴任後、現在は技術開発・製造技術本部を統括。
2010年に取締役、2011年取締役副社長、2012年に執行役員。

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インテル、取締役・副社長 阿部剛士氏講演

『グローバルビジネスにおける技術経営人財』

当財団は、グローバルなビジネスで活躍できる技術経営人財の育成と活用に取り組んでいる。インテルの取締役・副社長の阿部剛士氏は、かねてから経営リーダーは、育成可能だという考えをもって人財育成に取り組んでいる。第3回目のセミナーに『グローバルビジネスにおける技術経営人財』とする講演をお願いした。

セミナー写真

「知識だけでなく、精神的なバックボーンをこれだけクリアーに教育されていることが分かった」
と受講者からの感想があった。財団内の会議室で、阿部講師の話を熱心聞く受講者。

講演概要

インテルの従業員は、世界で現在約10万人。その約50%の従業員がプロセス開発やIC製造に携わっている。インテルに入社して、28年間になる。技術者として入社し、その後フィールド・エンジニアリング、広報室、マーケティング本部などのマネージメントを歴任し、現在の役職に至っている。2005年から2年間は芝浦工業大学工学マネジメント研究科(MOT)で学んだ。

今日は『グローバルビジネスにおける技術経営人財』という演題で、グローバルとは何かを含めて参加者の皆様と考えてみたい。

国際化とグローバル化で何が違うのか

グローバルのグローブ(Global)とは、もともと丸いという意味がある。グローブとは、地球のことである。国際化とグローバル化とでは、意味が違う。
国際化とは、拠点を国内において海外に出ることをいう。グローバル企業とは、国境をなくして活動をしている企業のことである。特定の国だけでなく、どこの国においても「めっちゃすごい(Extraordinary)」を求められている。

グローバルビジネスを展開するうえで、どのような人財を求めているのかを考えてみたい。
今日は21世紀型の人財について、話をしたい。
"Learn Connect Experience"「学んだことを使わないと意味がないし、学んだことをすぐ使うという環境を持つことが必要だ。使って、人に評価されることが重要だと」と考えている。

企業の社会的責任とは、存続し、成長することである

企業の社会的責任は、利益を出して儲けることである。
企業活動において、「存続と成長」は企業のリーダーに課せられた課題である。現在の日本の多くの企業の成長が止まっている。存続ができていても成長をしていないので、半分しかできていないといえる。企業は、常に成長することが求められている。 成長が止まっている会社の経営者は経営リーダーとはいえない。

デビット・ソンバーグは、21世紀のグローバル人材に求められる要素として、

(1)ICT活用力
(2)コミュニケーション力
(3)協働力(仲間と一緒に力を合わせて働く)
(4)リーダーシップ力
(5)問題解決力(ソリューション能力)
(6)創造力(仮説力)

の6つをあげている。

ビジネスリーダー、ICTを活用できることは重要

現在の世界人口は70億人で、毎秒4人の割合で人口が増えている。現在のインターネット人口は20億人で、3年後30億人になると予測されている。毎秒11人の新たなユーザーを生み出している。2010年に15億人のネットユーザが、2015年には、25億人になると言われている。
2020年には、80億人の世界人口の過半数がネットにアクセスすることができる。
アフリカのケニアのマサイ族の70%が携帯電話を持っていると聞く。観光客が来ると槍を持って飛び上がっているが、いなくなると携帯を持って電話をしている。
銀行口座を開設できない彼らは、携帯電話の送金機能を銀行(マイクロファイナンス)として使っている。
ビッグデーター(Big Data)の活用について話しをしたい。

データーには、"Structuredデーター"という、銀行やSAPなどのB2Bビジネスで使用する「整理されたデーター」と、"Unstructuredデーター"という管理されてない「ちゃんぽんデーター」がある。
使いにくい膨大なUnstructuredデーターを統計処理することで、必要な情報を抜き出して将来を予測することが可能となっている。情報が価値を生む。それは、ビジネスで使えるデータファームである。このデーターのアルゴリズムを、開発している人達がいる。

人間力を向上させることが重要である

Be Rational(道理をわきまえよ)、一緒にいると心地良い、人を引きつける、会った人が好きになる。これが人間力である。
人間力を向上させる10項目をあげる。

(1)嘘(うそ)をつかない。
(2)勇気をもって行動する。
(3)時間を守る。
(4)他人を褒める(ほめる)。(感謝の気持ち)
(5)嫉妬(しっと)をしない。
(6)謝ることができる。
(7)素直な気持ちになれる。(謙虚さ)
(8)謙虚さを忘れない
(9)分からないことを分からないと言える。
(10)前向きに物事を考える。(プラス思考)

信頼(Trust)される人間になるには

Trust(信頼)、人は振る舞いで判断される。
Trust(信頼)の4のワードは、

(1)Authenticity(誠実なこと)、
(2)Reliability(信頼性)、
(3)Competence(力量)、
(4)Caring(心遣い)

である。
"I care you."(心配りをしている。)、Caringは最も重要な言葉である。
リーダーは、「人が好き」でなければならない。

Win-Winの関係

米国もWin-Winの関係を重視するように変わってきている。戦うアメリカでも、今は共存共栄と言われるようになっている。その背景にサーバントリーダーシップがある。
最近の米国のビジネススクールでは、同業との間でWin-Winの関係をつくるように教えている。コラボレーションができていないと、"Red Ocean"になってしまう。市場を"Red Ocean"にしないことが重要である。
それは需要が大きく伸びないとき、市場はすぐ飽和してしまう。市場が飽和した状態で競合社同士が価格競争で競いあっては、値段のたたき合いが起きて採算割れをして、共倒れしてしまう。
アナログ時代のテレビは、半世紀を掛けて開発してきた。パネル型の液晶(デジタル)テレビはどうか。寿命が短期間で10年経っていない。昔と時間軸が違う。
サーバントリーダーであれば立派な城をつくることができる。
自分がハッピーになるには、皆をハッピーにさせなければならない。だからリーダーのゴールだと言っている。

知的能力の二元性

われわれの知的能力は大きく二つに分けられる。それは、分別力と創造力である。 分別力とは、知識である。創造力とは、先見性のもとにアイディアを生み出す能力である。
組織の創造力開花の3条件とは、

(1)知的な自由な気風 限界への挑戦をする
(2)異業種交流 他者との交流、知的交流(Cross-Fertilization)をする。創造の触媒。村をつくらない。
(3)競争的な環境 弟子たちが自分を乗り越えることを期待する、喜ぶ。

21世紀の主役は、サーバントリーダーシップ

部下の成功が、自分の成功だ(I succeed if you succeed.)と考えることは、重要なことである。
サーバントリーダーは、リーダーシップが、リーダー自身のためのものではないことを理解している。メンバーのビジョン、価値観、目標に生きる手助けをするものと考えている。
「サーバントリーダーは、決して自分が奉仕されるためにではなく、相手に奉仕するためにいるのだということを認識しているのだ。」(Dr. Robert K. Greenleaf)
サーバントリーダーになるのは簡単ではない。「自分の部下がハッピーであったら、自分はハッピーである」と言えるかである。皆さんが、サーバントリーダーになれるかである。なれれば、仏様のようである。
サーバントリーダーになるには、パワーを与える、レスポンスポンスビリティーを与える、責任は自分で取る、サービスも惜しみなく与える。ひつじ(サーバント)のように自分の部下をサービスする。
あなたが成功することが、私の成功である。あなたが幸福であれば、私は幸福である。
スチュワードシップ(stewardship)という言葉がある。スチュワードシップのスチュワードは、スチュワーデスと同じ意味を持っていて、奉仕するという意味をもっている。スチュワードシップに対する反対語は、利己的である。

ジーン・アムダール写真

「リーダーシップは先天的なものではない。リーダーシップは開発できる」を多くの研究事例をあげて、分かり易く説明してくれた講師の阿部剛士氏。
グローバルビジネス最前線の話に、受講者は満足することができた。

リーダーシップは、開発できる(The leadership would be developable.)

リーダーシップは先天的なものではない。リーダーシップは開発できる。

●次の9つがリーダーに求められる。

(1)変えられるか、変化(change)を愛す。変化を具現化できる能力。変化をいやがらない。
(2)影響力があるか。
(3)行動力があるか。戦術を指示できるか。
(4)明確な方針を持ち、責任をとれるか。
(5)難しい決断ができるか。
(6)自立型組織(willingly)とすることができるか。
(7)プラス思考(Positive Thinking)か。過去を否定しない。将来に関しては楽天的。
(8)世界観(Worldview)を持っているか。
(9)部下を指導し、育成できるか。

●リーダーシップ・パイプライン(The Leadership Pipeline)

リーダーシップ・パイプラインとは、燃料がパイプラインを流れるように、組織のリーダーを体系的に階層間、世代間でとぎれることなく育成するとの考え方である。
リーダーは開発できる。組織の中で、私たちは次のリーダーを開発するためのパイプラインを持っている。そういう人達を教育している。
リーダーシップ育成にあたっては、次の5つを組織で取り組むことが良いといわれる。

(1)権限移譲(Delegation)をする。
(2)コーチング(Coaching)力(指導力)を高める。
(3)商才(Business acumen)を伸ばす。
(4)人に対する影響力(Influencing)を高める。
(5)結果(Results)を出させる。

●リーダー育成の対象は、マネージャー

開発対象はマネージャーで、日本でいうとマネージャーは係長、課長、部長クラスである。本部長クラスになると、リーダーでなければならないと考える。課長は係長に、部長は課長に、本部長は部長に権限移譲(Delegation)をしているかを問いたい。権限の委譲とは、責任は自分かとるが権限は部下に委譲することだ。
権限の委譲が出来ていない人、人財の育成が出来ていない人、マルチに仕事ができなくて、シングルな仕事しかできない人は、マネージャーとしてもリーダーとしても失格である。
必ずしもすぐれた人がマネージャーに向いているわけではない。名選手イコール名監督ではないことでも分かる。マネージャーに向いていないだけで、全人格を無視しては駄目である。早くマネージャーから降ろしてあげないとかわいそうである。

管理者(Management)とリーダー(Leader)の違い

管理者とリーダーの違いについて良く聞かれる。その違いを表1に整理した。
"Why"を言う人が少ない。質の高いOUTPUTを得るには、"Why"が大切である。
リーダーには、洞察力が求められる。マネージャーを経験した人がなるかはノーである。ただインテルでは、マネージャーを経験した人がリーダーになることが望まれている。優れたリーダーが必ずしも人の管理ができるとは限らない。必ずしもマネジメントの上にリーダーがいるわけではない。
その一番良い例が、アップルのスティーブ・ジョブスである。彼は史上最高のリーダーであったが、市場最悪のマネジャーであった。彼のマネジメントのやり方では、人はついていけないとみる。
マネ―ジャーとリーダーを比較整理すると、表1のようになる。

表1 マネージャーとリーダーの比較

  マネージャー リーダー
1 仕事を間違いなくやる 正しいことをする
2 仕事する 改革する
3 スタッフに対して方法と納期を問う 何をやるのか、なぜやるのかを問う
4 部下のやる気を引き出す 組織の変革を指導する
5 損益確認をするよう指導する 広い視野を持つよう指導する

人財育成のまとめ

●リーダーシップは開発できる

今日は、ここまでで、リーダーには、ITに関する知識、コミュニケーション力、協業力、リーダーシップ、解決力、創造力という6つの要素が必要であることを話してきた。
リーダーシップは開発することができるものである。先天的な能力ではない。
リーダーに求められるのは、

(1)ポジティブシンキング(Positive Thinking)。
(2)リスクへの対処力(Risk taker)。
(3)変化に対して恐れない、チャレンジする精神力。変化を歓迎(willingly)する気持ち。
(4)リーダーは世界観("Worldview")を持つ。

ITリテラシー(ITを使いこなす能力)を持たなくてはならない理由は、"Worldview"を持つには、色々な情報を持たなくてはならないからだ。マクロ経済、ミクロ経済は当たり前だが、世界の起こっていることをリアルタイムでつかむ必要がある。
ダボス会議、日本人、夜になると日本人だけで集まって飲んでいる。ところが韓国のサムスンとか台湾の企業の幹部は、ホテルの一室を借り切って、世界の要人を招き入れている。30分おきに招き入れている。その差が出てきている。情報は人から、人へと移っていく。

●IQとEQ(知性と感情)

EQは鍛えられる。EQのEは、Emotionである。リーダーは、自分のEQ(Emotional Intelligence Quotient )を高めて欲しい。リーダーは自分で高めなければならない。
推奨図書として、Sスマイルズ著の「自助論(help self)」を進めたい。
アラン・ケイ氏は、「未来を予測する最善の方法は、未来を作り出すことだ」と言っている。スキルを伸ばすのに必要なことを紹介したい。"If you can't measure it, you can't built it or fix it"「いかに定量化できるか」を考えて見てください。能力を定量的に計り、評価することは大切である。

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