一般財団法人アーネスト育成財団

技術経営人財育成セミナー(第30回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

スタートアップから中堅企業への発展のために
経営者が考えるべきもの

余田 幸雄(よだ ゆきお)

日時 2024年3月15日(金) 18:30~20:00 (講演60分 討議30分)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)、Zoom参加者(無料)
定員 会場参加人員 最大16名(定員になり次第締め切ります)、 Zoom参加者50名
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

講演PDF(案内)(692KB)

スタートアップの創出については多くの議論がなされ、また多様な支援活動等が取られるようになってきたが、問題は彼らがいかにして中堅企業へと成長し、我が国の地域の経済・雇用を支えるものとなるかである。
売上100億円の壁の克服する等、名実ともに中堅企業へと成長していくには、経営者は創業の理念の維持と改革、経営スキルの向上、組織構成員の育成と経営目標の共有、内部組織設計、技術開発力の向上、情報化や国際化への対応等々多くの課題を解決していく必要がある。
野中郁次郎氏の『知的機動力の本質-アメリカ海兵隊の組織論的研究』(2017年5月中央公論新社)には中堅企業への発展にとって示唆が多く、「海兵隊は中堅企業であり自己変革のための遺伝子を内在」「暗黙知を形式知化し組織集団で共有」「組織としての知的機動力の向上」「隊員の基本資質の育成」などの視点で、アメリカ海兵隊の組織論を本セミナーの中で紹介する。

【講師略歴】

余田 幸雄(よだ ゆきお)氏

<略歴>

1973年京都大学法学部卒業、通商産業省入省。

2000年同省退職。この間、特許省、工業技術院、NEDO等。

1991年5月~1994年6月日本国カナダ大使館勤務。

1997年6月~2000年6月JETROサンフランシスコ所長。

2002年10月~2007年6月京セラ(株)勤務。

2007年~タスク・ヨダ代表(現在)。

余田 幸雄(よだ ゆきお)

『変革期のリーダーが学ぶことは何か』
  -野中の著書「知的機動力の本質」から学ぶ経営戦略-

トップと部下とが共感する場をつくる
令和6年3月15日、財団にて余田幸雄(注1)氏を迎え『スタートアップから中堅企業への発展のために経営者が考えるべきもの』と題するセミナーを開催した。野中郁次郎氏の著書には、スタートアップから中堅企業への発展にとって、示唆する内容が多い。アメリカ海兵隊の組織論を様々な視点からの考察が教示された。

余田講師

「稲盛さんがこだわったのは、畳のコンパをやる空間を工場や本社に作ったことだ。物流の部長
と生産管理の部長と営業の部長と、僕のような経営管理の部長、人事の部長と総務の部長が一緒
になる」と語る経済産業省を退職したあとに京セラで働いたことのある講師の余田幸雄氏。

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講演概要

講演内容詳細 (866KB)

スタートアップの創出は支援活動等が取られるようになった。問題は彼らが中堅企業へ成長し、我が国の地域の経済・雇用を支えるものとなるかである。売上百億円の壁を克服し中堅企業になるには創業の理念の維持と改革、経営スキルの向上、組織構成員の育成と経営目標の共有、組織設計、技術開発力の向上、情報化等、経営者は多くの課題解決が必要である。『知的機動力の本質』(注2)に書かれた内容はスタートアップから中堅企業への発展にとって示唆する内容が多い。「海兵隊は中堅企業で自己変革のための遺伝子を内在」「暗黙知を形式知化し組織で共有」「知的機動力の向上」などの海兵隊の組織論を紹介する。

組織志向性における海兵隊の特色
構成員にトラスト(信頼)とかインテグリティ(誠実)、イニシアティブ(自発性)、アンセルフィッシュネス(利他性)という特質を求める。小さな組織なので予算制約があり効率的に研究開発。ハイテクだけに頼らずローテクも併用。
組織面ではやわらかい組織を構成する。管理部門の専従、非専従の区別がない柔軟な組織づくり。
ある現場で仕事をした後は、その現場で獲得した暗黙知を皆で議論して形式知に変換。その整理を次の部隊に引き継ぐ。個々人の海兵隊員は任務遂行のための身体的精神的タフさを求める。学習をして実践する。判断し解決する。愛国心を求める。個々人の素質としてはライフルマンシップである。プロの技能と、プロとしての精神緑を求め、訓練し習得させる。

海兵隊のリーダーの能力
海兵隊のリーダーは実践によって体得できる知恵に支えられたリーダーで専門的な職業意識を有する匿名的なリーダーで良くカリスマ性を海兵隊は求めない。
リーダーに求める6つの能力。

(1)善い目的を作る能力
組織としての大きなミッションビジョンがなければ組織内の多くの個々人の思い、信念とは繋がらず、組織は動かない。

(2)現実を直観する能力
ありのままの現実を直接現場で直観して本質を瞬間的に見抜く。次に何をするべきか、どういう手段を取るべきか等の正しい判断。

(3)場をタイムリーに作る能力
刻々と変わる状況でトップダウンとボトムアップの両方で隊員と場をつくり何をするべきかを考える。トップと部下と双方向で共感する場を作れないと知恵は枯渇する。枯渇すれば組織は衰退する。

(4)直観の本質を物語る能力
直観で何が今起きているのか、次に何をするか、直観は重要。直観の本質を言葉にできないと周りと共有できない。物語を作る能力がないと鼓舞できない。

(5)物語を実現する能力
物語の実現には、リアリズムが必要。政治力がないと優れた構想も構想だけで終わる。政治力の評価は立ち場によって異なるが、リアリズムに立って組織の永続とか活力とかを考えれば、政治力が必要だ。

(6)実践知を組織化する能力
実際にどう動くのだというアクションプラン、アクションを取っていくための知識を組織に広めないと構成員は育たないし、持続的に成長はできない。そういったものを組織全体に広める。

中堅企業。変革と発展への示唆

(1)海兵隊員の基本
基本はライフルマンである。職人の集団である。決してエリートのアカデミックな集団ではない。空軍とか、海軍のトップはそうなるのだろうが海兵隊はライフルマン自身が万能で個人の集団。
中堅企業の従業員は、人数も限られるので、共通の知見の上に個人の専門性が発揮できないと大変だ。共通の基本的知見は中堅企業の中にあると思う。それを従業員一人一人が体得したうえで専門性が発揮できると考える。

(2)従業員に求められる資質
従業員の資質は、トラスト、インテグリティ、イニシアティブ、アンセルフィッシュネスがまずあって、その上に個々の従業員の専門性や特質が加わり、資質の相乗効果が発揮できる。これが中堅企業の良さで集団力になる。

(3)組織化の原理
組織化は、小グループを単位とし目的に応じて基本単位を組み合わせる。決して人数が多いわけでもなく、人材が豊富でもない。従業員をいろんな環境で動く中で機動的に目的別に適宜グループ化して組織に柔軟性を持たせる。組織力を最大化するためにこれを繰り返す。繰り返すことで多能工が育つ。そこにトップになれるリーダーが生まれチームが作られる。

(4)指揮の基本
上に立つ立場から組織をどう指揮するか。上からの統制と下への裁量範囲の付与の両立が重要。全社的なミッション、目標、ビジョンがあって、それに基づくトップの指示がある。後は従業員が自律性・自発性を発揮する。裁量の範囲を示さないで上から管理職が部下に指示するというのはよく聞く話である。従業員の判断の余地がなく一方的に指示する組織は長続きしない。

(5)知的機動力
変化する状況に対応できる知的機動力を持たないといけない。源泉となる個々の従業員の暗黙知が中堅企業の財産である。個人の暗黙知をいかに増やし出し合うか。頭の中に入っているだけでは組織として活用できない。個々人が持っているものを言葉として出し、集団が共有してドキュメント化、マニュアル化する。

企業における知の循環

(1)整理整頓をすることは重要
頭の中にある情報をきれいにする。整理する。要らないものは捨てる。新しいものは採用する。ゴミ、ホコリになっているような情報は綺麗にし、頭の中を整理整頓する。そこで初めて暗黙知が整理されて形式知になり他者と共有される。それによって集団のビジョンや戦略などの基礎が作られる。

(2)暗黙知を整理し形式知
集団の暗黙知を整理して、共有化された形式知があって初めてシステム化が図れる。陳腐化していくので、新システムに反映するべく、ぐるぐる回す。回すことによって新しい発展につながる。
これをやることで集団活動ができるようになる。多能工の育成につながる。これをやるには、トップが先頭に立たないと駄目で、一生懸命やっている部下の梯子を外さないのがトップの仕事である。

セミナー写真

「中堅企業はトップを下からも見えるし、上からも部下が見える」と余田氏

できて当たり前ができないトヨタ
最近、見つけた『進化・変容するトヨタ生産方式の新展開に関する調査研究』(注3)の紹介をしたい。海外拠点の指導強化のために5Sに加えて3本柱活動をトヨタが中心となって進めている。
海外拠点が増えた。海外は従業員の出入りが激しい。長期間働いてくれない。勉強して慣れてくると新しい会社に遠慮なく移る。そのために3本柱の活動を行う。

(1)3本柱の活動
3本柱とは何か。標準作業の徹底と改定、自主保全(5Sを徹底しトラブルの未然防止を図る)、加工点マネジメント(刃具交換後直ちに良品を生産できるように管理する)という3点である。
3番目は切削工具の耐久性がぎりぎりになっているところで早めに取り換えて、すぐに良品ができるように管理するということのよくうだ。こんなことは当たり前のことだと思うが、これを5Sに加えて「3本柱活動」として、わざわざ日本から海外に、あるいは国内の工場・グループの会社に指導することに取り組んでいると言う。
その中心になるのがトヨタグローバル生産推進センターというところで、ここで一定レベルのスキルを習得した従業員、色々な知見や暗黙知・形式知を蓄積してこられた従業員だと思う。この生産センター自体は、ベテラン従業員が情報共有して整理をしている場になっている。一定の資格を取った人が、国内や世界各知に派遣されて、生産方式の基盤の平準化に努めることに取り組んでいる。
3本柱と5Sの一体のモノと位置付けられているが、できて当たり前のことにトヨタは今、取り組んでいることが驚きであった。

(2)非正規で基盤が弱体化
海外は従業員の出入りは激しいが、国内のトヨタの現場でも、非正規の従業員が結構多くなっている。非正規の従業員が増えてくると、形式知は未定着になり、暗黙知を頭の中で整理して、それを顕在化させて集団で知見を得るという基盤が弱体化してくる。
先ほどの「5S」のところで申し上げたものと共通する。要するに従業員の横の共通の場がいかに必要か、そこに帰する。このレポートを読んでいる限りは上から下に一方的に情報が流れている感じがした。忙しいと言えば忙しいだろうが、現場の一線でやっている組織横断的な従業員の横の情報交換の場が見当たらない。

(注1)タスク・ヨダ代表

(注2) 野中郁次郎(2017)『知的機動力の本質-アメリカ海兵隊の組織論的研究』中央公論新社

(注3) 公社中小企業研究センター(2023.12)『進化・変容するトヨタ生産方式の新展開に関する調査研究』調査研究報告No137

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