技術経営人財育成セミナー(第26回)変革期のリーダーが学ぶことは何か
『ソフトウェア「要求定義」の新手法』
-インタビューによる潜在情報を形式知化技術を学ぶ-
山中 隆敏(やまなか たかとし)
日時 | 2019年4月8日(月) 18:30~20:00 (講演60分 討議30分他) |
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場所 | 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ |
参加費 | 3,000円(終了後の懇親会費用を含む) |
定員 | 最大18名(定員になり次第締め切ります) |
申込方法 | FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて |
主催 | 一般財団法人アーネスト育成財団
講演PDF(案内)(942KB) |
ソフトウェアの開発の際に、顧客の要求をまとめたものが要求仕様書である。
要求仕様書は、顧客の要求を引き出し、要求を分析し、文書化したものである。顧客の要求を、漏れや誤りがなく抽出することが必要である。
研究に取り組んできたインタビューによる要求仕様書作成法は、既に実務で広く使われていて、様々な提案がされている。しかし、要求を抽出するための順序、順番、時系列などのプロセスが定義されてないなどの問題があった。
本セミナーでは、顧客の要求を漏れや誤りがなく、かつ、効率よく抽出できる、インタビューによる要求抽出作業を誘導する新たな方法を紹介する。具体的には、顧客から要求を抽出する順序、順番、時系列などシナリオに沿ってインタビューする手法で、本手法を使うことで、熟練SEと同じような要求定義を明確にし、仕様書を作成することができるようになる。
山中 隆敏(やまなか たかとし) 氏
<略歴>
2008年 芝浦工業大学専門職大学院工学マネジメント研究科修了
2011年 芝浦工業大学で博士号取得 工学博士
<略歴>
1987年 富士通(株)入社
2010年 (株)富士通研究所
2017年 (株)メディカルパーフェクト代表取締役社長(現在)
2017年 一般社団法人ペンタグラム・ジャパン・コンサルティンググループ代表理事(現在)
<学会>
日本開発工学会会員、サービス学会会員
山中 隆敏(やまなか たかとし)
『ソフトウェア「要求定義」の新手法』
-インタビューによる潜在情報を形式知化技術を学ぶ-
司会(小平和一朗専務理事):今日はソフトウェアの要求定義の新手法ということで、山中さんが博士論文を取った時に取り上げた、インタビューによる潜在情報の形式知化技術の研究というテーマですが、いろいろと考えると経営にも応用できそうであるということで、是非セミナーでお話をして頂きたいというお願いを致しました。山中さんは、富士通の研究所にいたのですが、辞めて2年程になります。詳細は自己紹介の中でお話をして頂きますが、現在はメディカルパーフェクト代表取締役社長ということでご案内を申し上げております、今日はよろしくお願い致します。
「今後の課題は、技術経営を学ぶという観点から、保有する技術情報(シーズ)と市場・顧客(ニーズ)を結び付け、新規市場に適用できるかを今後の課題としたい。新しい顧客に新技術を使ってビジネスするということが必要であり、そのための課題は、シーズ志向で顧客にあたる、市場と技術を結びつけることができる思考力が要求されるがある。新規市場創出への課題としては、持てる技術をいかに活用するか、マーケティングとエンジニアリングの両面から理解することがカギで、今日紹介した手法を経営戦略とか新規市場への活用ができればと思う」と。
講演概要
講演内容詳細 (1.29MB)
重要な要求定義プロセス
色々な情報システムが、公共機関などの社会インフラ、流通システム、情報管理システムなど色々な所で開発、様々な分野で利用されている。開発にあたっては、案件ごとにプロジェクトを組んで行われているのが普通である。
ソフトウェアのライフサイクルモデル、システム企画で何を作るかから始まる。次にどういうものを作るかの要求定義のプロセス、それを基に開発を行い、テストをして、運用し、保守をする。
ライフサイクルの中で要求定義プロセスは、何をどう作っていくかをお客様から聞き出す重要な作業である。聞き出した結果を、要求仕様書にまとめる。
ここで誤りがあると、そのまま誤ったソフト開発を行い、顧客要求と合わなくなる。作ってはみたが、要求と合わず、作業やり直しが発生し、予算がかさむ。実際、予算を一億円で組んでいたが、十倍の十億円かかったりする事例を見たこともある。
シーズとニーズを擦り合わせる
要求定義での漏れや誤りの要因は、SE(注1)側と要求を出すお客様側の持っている認識、知識が全然違っているということがある。作る側のSEは、会社ごとに持っている技術情報というシーズを持っているが、顧客の業務や市場が分からない。一方お客様の知識からすると、作りたいと思っているものを実現する技術の知識がないため、双方が何を言っているのかよく分からない。
双方の話が全然噛み合わず、コミュニケーションが上手く取れないとか、すり合わせができなくて抽出した要求に漏れや誤りが発生する問題が、今でも頻繁に起こる。
顧客要求抽出のための4要素
要求を定義するための手法はいろいろあるが、重要なことが4つである。(図1に示す)抽出技法もアンケート手法とかがあるが、インタビュー法を使って要求を抽出しようと決めた。
利点は。実務で広くつかわれており、手軽に利用できるからである。欠点は、聞き手が上手く誘導しないと有効な情報が得られないとか、個々人のスキルに依存してしまい、漏れや誤りが発生し、品質にばらつきが出てしまうことである。これを解決するというのが一つの課題である。
働き手不足は、この世界にもある。熟練のSE不足、初心者のSEでも上流の工程の要求抽出を行える支援をするものを作る必要があったという背景があった。
顧客から要求を抽出するためのツール(要求抽出技法)の重要な要素
- ①コミュニケーション:顧客と上手くコミュニケーションをとれる
- ②人を限定しない:誰でも容易に顧客から要求を抽出できる
- ③期間:期間をかけずに手軽に顧客から要求を抽出できる
- ④網羅性・正確性:漏れや誤りなく顧客から要求を抽出できる
図1 顧客要求を抽出するための4要素
話題と質問の2階層モデル
お客様のニーズを聞き出すベテランの持つノウハウとか順番などを、初心者のSEでも同じように作れる方法と質問のやり方に整理した。
ベテランの話題と手順の方法から、話題と質問の2階層モデルを採用した。手順に沿って具体的にどういう話題をとりあげ、そのカテゴリーの中で、質問する作業を誘導する。熟練SEが持っているノウハウを遷移パターンを5ステージに整理した。(図2)
図2 熟練SEの話題ステージの遷移
質問を誘導する層
開発要点でお客様にどのような質問をしたら良いか。アプリケーションで何を作るかという要求を取り出し、要求を限定していく。例えば、携帯電話のソフトウェアを作りたいということでも、どのようなソフトを作りたいのかというようにアプリを決めて、その機能を落とし込むまでに、絞り込む作業が必要である。それによって顧客の回答を予想の回答の一候補とみなす。これを繰り返しながら質問をしていく。
誘導ルールを作る
誘導ルールの作り方は、質問と予想される回答の候補の関係は、ゴール指向の要求分析のAND/OR木で表現をする。ゴール指向の要求分析とは、システムに求められる要求に対して、システムを実現する上での目標とみなして、目標達成手段の概念で展開し、要求を抽出する手法である。
AND/OR木において上位のノードが目標で下位のノードが達成手段と表現し、一つの目標を達成するに複数の手段を達成させる必要がある状況をAND関係で表現し、複数の手段の中で一つの手段を達成させれば良いとの状況をOR関係で表現する。
例えば、営業利益率の向上を表現する。営業利益の20%増を目標にすると、それを達成するために売上げ増やしたり、コスト削減をする。売上向上には、営業力の強化とかサービスの強化をする。営業力の強化では、営業スキルの向上とか提案数を増やすとか商談勝率を上げることとか。さらに下方に分解をし、これ以上行かないところまで落とし込むことを行う。
これをアプリケーション毎に作成する。例えば病院、銀行、官公庁、保険など一つ一つにルールを作っていく。かつ、再利用性ができるように適用していく。
誘導ルールの作り方
誘導ルールをどのようにして作るか。要求分析、誘導ルールの質問文の作成、誘導ルールの整理の3つのステップで作る。
S1:要求分析
ここでは、ビジネス要求、業務要求、システム機能要求の3つのカテゴリーで3つの階層で表現する。3段階の要求が完全性、充分性、妥当性の観点で適切に定義されていることを検証する。
妥当性の検証、抜けがないか、階層図を作るノウハウやコツ。それらの作業を行い形式知化する。それが要求仕様書である。要求仕様書の書き方に各社違いはある。国際標準規定『ソフトウェア要求仕様書(注2)』を利用した。妥当性確認は、作った要求仕様書をステークホルダー、顧客や関係者で完全性、正確性、整合性、妥当性などで品質評価。レビューを行って完成をさせる。
ここまでを作るのが難しく、業務に精通した、経験のある複数のSEが必要である。初心者のSEが使えるようになる誘導ルールの質問を次のステップ作る。
S2:誘導ルールの質問文
仕様書に対してどういう質問をすれば良いのか。AND/OR木を用いたノード単位で質問文を作成していき、もれなく質問を作成することができるようにする。
S3:誘導ルールの整理
顧客の要求を抽出するために、どのようなシナリオで行ったらよいか、どのような質問の順番で行ったら良いかを整理する。
AND/OR木を用い上位ノードから下位ノードに向かって質問の順序を整理し、誘導ルールを作成。
「事業系ソフトに報告のようなプラットフォームはないのか。皆が使えばコストは安くなると思う」と
西河洋一理事長から意見。写真はセミナー受講風景。
(注1)SE:システムエンジニア
(注2)IEEE830 ソフトウェア要求仕様書