一般財団法人アーネスト育成財団

技術経営人財育成セミナー(第10回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

CIOが日本を変える、会社を変える

- セブン-イレブン流サービス・イノベーションを学ぶ -

碓井 誠(うすい・まこと)
((株)オピニオン 代表取締役・京都大学経営管理大学院(MBA)特別教授)

日時 2014年5月26日(月) 17:00~19:00 (講演60分、討議30分他)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

パンフレット(987KB)

情報通信で日本は世界に遅れているといわれるが、セブン-イレブン・ジャパンの情報システムは日本を世界をリードした業務システムとなっている。日本にも世界に誇れるサービス・イノベーション事例がある。
今回の第10回目の技術経営人財育成セミナーは「CIOが日本を変える、会社を変える」と題して元セブンイレブン・ジャパンで常務取締役システム本部長として長年情報システムの構築に携わってきた碓井誠氏を迎え開催する。碓井氏は1978年にセブン-イレブンに入社以降、業務プロセスと一体となったシステム構築に携わりSCM(サプライチェーン・マネジメント)、DCM(デマンドチェーン・マネジメント)の一体改革をリーダーとして推進してきた実績とセブン-イレブン米国の再建に取り組んだ実績も持つ。
現在は、京都大学大学院のMBAで教壇に立ち人材の育成に取り組むとともに、オピニオンを立ち上げ、国内や海外企業などの情報システム構築の支援に取り組んでいる。CIO(最高情報責任者)の役割りについて実践的な経験や知見を聞き、質疑応答を通して参加者全員で次世代の情報システムについて学ぶ。

【講師略歴】

碓井 誠(ウスイ・マコト)氏

1978年 セブン-イレブン・ジャパン入社。
2000年 常務取締役、情報システム本部長。
2004年 フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)取締役副社長。
2005年 UFIDA Future Consulting副董事長。
2009年 芝浦工業大学大学院 工学マネジメント研究科 教授。
2010年 京都大学経営管理大学院 特別教授(現職)。
2011年 (株)オピニオン代表取締役(現職)。

・ 九州工業大学情報工学部客員教授
・ 東京工業大学大学院非常勤講師
・ 早稲田大学大学院商学研究科(MBA)非常勤講師

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(株)オピニオン 代表取締役
      ・京都大学経営管理大学院(MBA)特別教授 碓井 誠

『CIOが日本を変える、会社を変える
      -セブン-イレブン流サービス・イノベーションを学ぶ-』

■ 日本にも世界に誇れるサービス・イノベーション事例がある

IT(Information Technology)活用で日本は必ずしも先進国と言えない面もあるが、セブン-イレブン・ジャパンの情報システムは日本を、世界をリードした業務システムとなっている。日本にも世界に誇れるサービス・イノベーション事例がある。
元セブン-イレブン・ジャパンで常務取締役システム本部長の碓井誠氏は1978年にセブン-イレブンに入社以降、業務プロセスと一体となったシステム構築に携わりSCM(サプライチェーン・マネジメント)、DCM(デマンドチェーン・マネジメント)の一体改革をリーダーとして推進してきた実績と、セブン-イレブン米国の再建に取り組んだ実績も持っている。
セミナーでは、CIO(最高情報責任者)の役割りについて実践的な経験や知見を聞き、質疑応答を通して次世代の情報システムについて学んだ。

セミナー写真

「(CIOをChief Information Officer でなく)Chief Innovation Officer と皆言っているが、
そういうことだろうとも思う」と語る碓井誠講師。

講演概要

講演内容詳細 (1.82MB)

基本的にはITと業務プロセスのデザインを両輪でやることが大切

『CIOが日本を変える、会社を変える』は、頂いたタイトルだが、日本を変える力はもうないが、日本のIT化というか、多少はセブン-イレブンも役に立ったし、これからも役に立って欲しいので、その辺の話しをさせて頂く。
私は京都大学で特別教授と、九州工科大学で客員の教授をしている。この5年くらいで7つの大学で教えてきたが、現在は、またビジネスに戻りつつある。コンサルティングでIT企業とか、海外のコンサルティングを4年位している。これまでセブン-イレブンでは、アメリカのセブン-イレブンを買収して、再建を90年代に出張ベースで8年位やった。2002年から中国への出店を手掛けた。2003年末で退社して中国の会社と合弁を組んでITコンサルを4年位おこなった。2010年からインドネシアをやっている。
色々とやってきた流れの中で、基本的にはITと業務プロセスのデザインを両輪でやっていくことが非常に重要であると認識している。

  1. 社会の変化とサービス・イノベーションの進展
  2. ITの革新力と先進企業での活用事例
  3. CIOに求められる新たな役割

1. 社会の変化とサービス・イノベーションの進展

社会の変化とサービス・イノベーションの進展

CIO論も色々言われているが、なかなかこれがCIOだというものはない。CIOは変化対応のスピードと柔軟性、そして挑戦を重視し、「変幻自在」でなければならない。私の会社のオピニオンのスピリッツの1番最初が「変幻自在」である。いずれにせよ、変化への対応が非常に大事である。

■人口減少社会

最大の問題は、富の循環が途切れていることだ

最初に世の中の変化ということで、やはり人口の問題だ。生産年齢人口、今日も新聞に出ていたが、15~64歳だが、日本の場合は女性の就業率は60%くらいで、また15歳から働くわけではないので、働く人がどんどん減ってくる。2050年には統計上で51%、実質的にはもっと減る。このままだと大変な状況になる。この生産年齢人口の減少が、人口問題の核にあるのではないかと感じる。
人口構成の中身、世帯構成を見ると、もう既に2008年で単身世帯および夫婦のみが50%以上を占め、夫婦のみの中にもおじいちゃんが介護施設に入っているという割合がたくさんある。65歳以上の30数%が単身。一人暮らしの高齢者ということになっていて、大変な家族構成、世帯構成の変化が世の中に変化を巻き起こしている。非常に端的なことで言うと、コンビニが繁盛しているのはこの影響が非常に強い。個食化、料理を作らない、中食を食べる、そういう時代にどう対応するかということで、伸びを示している。
高度成長がなぜ起きたかというのは、人口構成が背後にある。団塊の世代が子供を持って、家を必要としたときに郊外に家を建てて、モータリゼーション、それからイトーヨーカドーやイオンのようなGMS(記事)ができて大量消費時代に入ってくる。家が売れて、車が売れて、家電が売れて、家具が売れる。それが今は、親が家を持っているので、一人っ子同士だと、じっくり待っていれば2つ家が手に入る。5,900万戸の家があるが、5,200万世帯しかないということで、家の循環も途絶えている。ご承知の通り、1,500兆円の個人金融資産のうちの65%を高齢者が持っているが、当然ここは循環していない。社会的な色々な不安がある。人口の構造を見ても、非常に大きな社会的変化がある。

講師 碓井氏

「CIOは変化対応のスピードと柔軟性、そして挑戦を重視し、
『変幻自在』でなければならない。」と話す碓井氏。

■ 社会変革とビジネスモデル

サプライチェーンからデマンドチェーンまで一気通貫でコントロール

そこで、人口と産業構造の話をした後で流通を見てみると、日本の場合は製造、卸し、小売りとも、数が多くて、中小が多くて、生産性が低い。欧米の場合には、特に卸しの階層が非常に薄くできている。だからGDPを見ても、日本一次問屋、二次問屋の分野を含めて、アメリカから見ると2倍、3倍の層のビジネスがあるというと聞こえが良いが、ここに非常に生産性の低い活動が生まれてしまっている。
例えばウォルマートやテスコ、セブン-イレブンは仕組み産業で、小売りだけの領域でのビジネスではなく、そういうビジネスモデルだと経常利益が5%~7%、セブン-イレブンの場合には10数%になる。こういうビジネスモデルは、後でお話しするが、このサプライチェーンの調達、物流、卸し機能を自らやっている企業が多い。日本の場合には、特に百貨店とGMSは卸しに依存して、卸しから供給を受けて小売の部分のみをやったので利益が低い。
世界の流通の、あるいは製造業を含めた産業構造を見ると、サプライチェーンを押さえている。あるいはサプライチェーンからデマンドチェーンまで一気通貫のコントロールをしている。これはユニクロやザラやH&Mは典型である。このモデルは強くなっている。これはまさに世の中の変化が激しくなったので、一気通貫でつなげなければ迅速な対応は取れない。
ここにITの持つ価値が大きく出ている。さらにコンシューマーにITが入っていくことで、企業と消費者の壁が外れた。こういう時代的な背景とITの進化が、マッチングし得る時代になってきた。そこが非常に大きな観点で、CIOという視点で変化への対応を見ていかなければいけない。

セブン-イレブンは、販売代理型流通から購買代理型流通へと変化

豊かになったが、バブルがはじけると、何でもかんでもは買わない。自分に合った物を買う。
また情報が豊かになれば選択の眼も肥えてくる。そうなった場合に、小売業はメーカーの作った物を売る時代から、買う人に変わって商品を揃える。そう変わってくる必要もあるし、変わってきたところが生き残っている。肉屋や魚屋や八百屋やパン屋が決して悪いわけではないが、日常的に今欲しい物がぱっとそろう、これを「ワンストップ」という。色々な物がそろう。この役割がコンビニの方に移ってきている。

集客の時代は終わった

様々な変化の特徴が書いてあるが、1つは集客の時代が終わった。
今繁盛している百貨店はほとんど駅隣接の百貨店である。東京の大丸、京都の伊勢丹、大阪は少し特殊だが、梅田阪急、札幌もこうである。そういうことを含めて、逆に小型店、駅ナカ、さらにご用聞き、もっと近くではスマホにまでネットのお店が来ている。また高齢化、世帯構成、ライフスタイルの変化、多様化、サービス化、ヘルスケア、個食、中食、こういう物が非常にビジネスの主要なポイントとして浮かび上がっている。
さらに、PQ志向、従来の経済とか流通はPrice訴求なのか、Quality訴求なのかどちらか一つだったが、今ではPQ両方がそろっていないと支持が得られない。
コンビニは今まで価値訴求でまあまあの物が入っていたが、コンビニにも安い物が入っている。グループPB商品、セブンプレミアムはまさにそうだ。客層が広がっている。ところが300円の食パンがあったり、300円のハンバーグがあったりする。
プライベート・ブランド自身も安いものだけでなく、中高のプライスを揃える例もある。ヤオコーの豆腐には3つの価格帯がある。プライスとクオリティを両立させることが幅広く流通の中、経済の中に出てきている。専門化されて、高いゾーンだけをやる、安いゾーンだけをやるというビジネスモデルではない。これは今までの学問領域にはなかった現象が起きている。それをハンドルしなければいけない時代になってきたという認識が非常に重要だと思う。

価値共創社会のイメージ

これ(図1)は私のフレームワークで、横軸が売り手社会、買い手社会、価値共創社会。経済価値だけではなく、経済以外の文化的環境的な価値や、多様な価値を充足していく。
縦は価値観とチャネルプロセス、これはビジネスモデルと言っても良い。リソースの配分、人口の配分もあるし、法律やルールもある。世の中を3要素で捉えてそれをドライブするエンジンにITや技術や経営志向があるという形のまとめをしている。

図1 価値共創社会のイメージ

図1 価値共創社会のイメージ

■ セブン-イレブンの戦略

コトからソリューションへ

セブン-イレブンの戦略を話したい。経営理念は購買代理型と、利便性を提供する小売業という表現をしている。つまり物を売る小売業ではない。これがセブン-イレブンの、これからのビジネスの非常に重要な要素というか、目的をどこに定めるかというときに、モノからコトへという話しを聞かれていると思うが、私はコトからソリューションへという表現をしている。
ソリューション領域がセブン-イレブンにおいては利便性である。食べる物を売る、雑貨を売るというだけでなく、お金を引き出せる。宅急便を送れるという。日常的な領域の利便性を提供するのがセブン-イレブンのビジネスである。

利便性と個店対応

セブン-イレブンはイトーヨーカドーのような大きな店が出ると、中小の小売店が潰れる、それが共存できる方法はないかということで、鈴木会長がデニーズの契約にアメリカに行ったときに、セブン-イレブンを見つけて、こんな店がある。ショッピングセンターの前に立地していて、それでも繁盛している。これは利便性である。
車で並び、レジに並ばなくても、大きな店に入らなくても、ちょっと入って、タバコやドリンクをさっと買える。日本でも日本風に展開できるのではないかということでセブン-イレブンが始まった。そういう理念が、お客様を大切にするという意味合いでの顧客の立場での品揃えと提案である。そして個店対応。

セブン-イレブンの個店対応

個店対応。一つ一つのお店が自分の立地やお客さんに則した対応をしていく。品揃えやサービスは多少違う。それから商品。サービスの開発。そして、ここが一番の強みだが、マーケットと顧客、サプライヤーをつなぐ。バリューチェーンの一気通貫を最初からデザインしている。
小売業の枠にとらわれず、物を売る本部とお店のデザインだけではない。原材料から製造・物流を全てデザインする。それらを実現するために、イノベーションを実現するためのインフラとしてITを組み込んでいく。
多くの会社のコンサルティングを色々やる中で気づいたが、戦略が明確になっている企業は少なく、経営理念のレベルに留まっている。戦略になっていても、戦略が組織に埋め込まれていない。あるいはITで実装されていない。こういう企業がほとんどである。

公共料金の手数料収入

いちばんヒットしたのは公共料金である。4兆円がセブン-イレブンの売り上げだが、それ以上の金額が収納されている。一日1店舗当り75件くらいある。それだけ手数料収入が入る。手数料収入は年間200数十億に上がるものと思われる。システム開発コストは、私の記憶を積み上げても、色々なものが追加になっても、多分5億はいっていない。毎年200億の収益が、5億円くらいの投資で得られている。非常に効率が良い。
店の作業としてバーコードをスキャンすると、POSレジの画面にやり方が出る。宅急便もスキャンすると、やり方が出る。セブン-イレブンではバーコードで全部処理して、スキャンすると誰でもできるようにマニュアルが出る。だから大きな画面のレジを作った。お客さんにアピールしたいから大きい画面のレジを付けたと思われているが、むしろ店員が操作しやすいレジを作りたかった。
マイクロソフト(Microsoft)にも協力してもらってOSを改造し、95年から2年かけて徹底的にミドルウェアを組み立てて、レジをウィンドウズ製で両画面制御ができるようにもした。お客さんの側の画面も大きくしようということで、両面が大きな画面になった。

銀行端末ATMをウィンドウズベースで開発

色々な開発とサービスを加えて、次に来たのがATMである。これも大変な成功をした。このATMは、2001年5月からセブン銀行でスタートした。その前の1999年の11月に銀行の認可が民間に降りそうだということで銀行プロジェクトに変えたが、その以前はATM運営会社構想。ATMを自ら開発し、ネットワークを作り、金融機関からATM業務を受託するというビジネスモデル。
銀行はとても嫌がり、協力してくれなかったが、なんとか話をつけた。話をつけた一番のポイントはコストである。金融機関の3分の1でATMとATMネットワークの開発をした。これも先ほどお話ししたようにウィンドウズである。ATMの開発では、NEC、沖電気にも助けて頂き、ATMを作った。ATMは当時600万、下手したら800万円ほどかかっていたが、セブン-イレブンは230万でウィンドウズベースのATMを作った。性能は少し落ちるが十分使える。IPネットワークで金融ネットワークを組んだ。ATM決済ネットワークも組んだ。これは1から始めた。ほとんど知られていないので、一緒にやってきた人達のためにもこういう機会に話をしている。
システム部門でビジネス企画も全部やって、技術的なこともやった。最終的に銀行構想に切り替わって、グループでのプロジェクト推進になるまではシステム部門が中心に推進した。銀行との協定書までこぎつけた。
それがうまくいったのは、3分の1というコストで新しいサービスが提供できること。新しいオープンなITを使ったということ。これが実現できたからだと思っている。
このATMサービスは、1日115人位使っている。公共料金、チケットと合わせると200人弱が、サービスのお客様。セブン-イレブンの客は毎日1000人。バブルがはじけた後に、商品開発サービス、それを支えるIT、特にオープン化して、ローコストでサービスレベルを上げるということを、バブルの後にやってきた。その流れの中で、他の小売業が非常に成長が鈍化したときにも、セブン-イレブンは成長が止まらずに済んだ。

プラットフォーム経営モデル

そこから生まれたビジネスモデルが、プラットフォーム経営モデルである。商品中心だったところに、ITと経営志向をベースとして、金融サービスとネットサービスを結び付け、様々なサービスが入ってくる。
コンビニの特徴だが、家の近くにあって24時間空いていて、平均週3回使う。ここに色々な商品やサービスが整っていれば、自分のお店という感覚で使ってもらえる。そういう利便性というソリューションを実現した。これが世界で唯一コンビニが小売業のベスト5のうちの3社を占めている理由でもある。

セミナー写真

「金融機関からATM業務の受託を話をつけた。話をつけた一番のポイントはコストである」と碓井講師。

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2. ITの革新力と先進企業での活用事例

ITとはイノベーションそのものだ

ITとは何か。私はITとはイノベーションそのものだと思っている。
それは、5つのイノベーションパワーである。

  1. 枠組みを超えた革新ができる。
  2. サービスレベルが非常に高い、物・コト・ソリューションへのサービスの進化を支えることができる。
  3. コンテンツ、最近はデジタルコンテンツだけではなくてフィジカルコンテンツ、3Dプリンター。モノを物流に乗せなくても、モノを電子化してアフリカに送ることができる。医療の領域でも使える。
  4. コストパフォーマンスの飛躍的向上と業務改革ツールの進化。オープンで、チープである。
  5. さらに、生活者起点のWebワールド形成のためにITが非常に大きな貢献をしている。生活者起点の逆の言葉は、サプライサイド起動、主導である。生活者側がイニシアチブを持つことができる。

ソリューションの視点でビジネスを考える

インターネット第1期というのは、ポータルサイトで初歩的なことをやっていた。そしてビジネスに使われるようになって、今最も大きなインターネットの世界が、サプライヤーや行政の世界を飛び出して、消費者駆動型のメディアとかSNS、さまざまなサービス、社会性やC2Cという領域も含めて形成される。この時代をサプライサイド主導から生活者起点への価値共創インフラの出現という言い方をしている。
全てがITのおかげではないが、ITが貢献した領域によって新しい世界が生まれてきている。したがって、世の中で新たにソリューションという捉え方で企業活動なり、社会的な価値の連動を見ていく。そういう見方が非常に重要だ。
そこで、ソリューション型問題解決ということでいくつかの事例を入れ込んである。
スーパーオギノ、これはフリークエント・ショッパーズ・プログラムで、ポイントカード、個人情報をうまく使ったスーパーの展開をして有名な会社である。
またセブン-イレブンは、生活の利便性の提供。

ビッグデータも含めて仮説検証

ソリューションを実現するためにITの使い方として、ITはイノベーションと話した。
具体的なシステムとしては、5つの活用の視点が重要である。

  • 1つ目はオープンリアルタイム、オープンな連携。
  • 2つ目はワークフローの流れを整理してITに乗せる。
  • 3つ目はセブン-イレブンがほとんどできていないが、システムサポート、システムリコメンデーション、自動化、自動発注などでITがうまく使える。
  • 4つ目はクラウドや新しいオープン化。
  • 5つ目はログデータの活用、いわゆるビッグデータの活用。

私はログデータという言い方をしている。これはあくまでPOSデータも生活者起点、あるいは色々なインフラ系の診断データも、その機械が稼働している、現場で発生しているログだから意味がある。サプライサイドがピックアップして分析するのではなく、現場そのものに意味がある。ビッグデータも含めて、仮説検証、生活者起点という領域でのITの使い方が重要だ。

低価格なATMを開発し、新たなビジネスモデルを展開

公共料金と銀行の領域を伸ばした。多くの人が利用してくれて、専門的なノウハウが当事者に必要ない、ATM、金融ビジネスの中の入出金中心のところを集中的にやるという考え方。今まではコストが高くてできなかったが、オープン技術をものにしたので実現した。
公共料金とATM合わせて1日当り600億の取扱いがある。これは都銀3行、メガバンク3行のATM使用件数の半分強。郵貯の数字が押さえられていないが、ナンバーワンかナンバーツー。この銀行は立ち上がって約6年で累積損失を解消した。500億円の経常利益を上げ、セブングループの中で2番目の稼ぎ頭になった。
銀行の外に置いているATMの月額総コストは85万~90万。eネットが50万。セブン-イレブンは27万だから3分の1。これはITの力、ビジネスモデルとして組み込んだ。

ビッグデータを使ってビジネス展開

全日食、オギノ。メーカーとの連携にデータをフィードバックして、メーカーと一緒に商品開発やプロモーションをする。メーカーは作った商品が予定通りのターゲットで売れているのか売れていないのか、顧客データに基づいてプロモーションを打ったり、展開して分析する。これをビッグデータといっている。メーカーとのコラボレーションに入ってきている。非常に進んだ小売業はそういう一面がある。

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3. CIOに求められる新たな役割

私はCIOというのは、図2に示す7つの役割、機能かと思っている。

図2 CIOの役割

図2 CIOの役割

■CIOの7つの役割

(1)戦略的ITの活用

ITを戦略的に使うということは、ITだけ見ていてはダメである。ビジネスのトレンドを、フォーカスを決めて見ていくことが必要である。私はシステムとITを切り離して見ている。
あくまでITは素材であり、システムはシェフが作った料理であり、そのお客さんはマーケットと顧客である。ビジネスの変化、顧客の変化、ITの変化、システムの変化を見る。非常に範囲が広いが、私の視点から見ると、あるいはセブン-イレブン時代と言葉は違うが、このくらいの領域を見るようにしている。
セブン-イレブンの場合には、ほとんど新たな挑戦で、コンピュータ発注は日本で最初だったし、その後のハードウェアも、第6次までやっているが、店舗のハードウェアは全部オリジナルで開発してもらっている。それが小売りの流行になって入っていった。こういった業務上のテーマを解決するために、シェフたる者、そのリーダーがCIOである。素材であるITをどうやってうまく使うか。
素材、原材料が新しく出てきたものを、お客であるビジネス、経営のためにどう料理として仕上げるか、この3つの関係で、IT活用を進めてきた。(図3参照)

図3 経営課題システム、技術活用の連動

図3 経営課題システム、技術活用の連動

(2)問題解決の提案

2つ目は問題解決・提案。先ほど少しお話ししたものも出てくるが、色々なソリューションが小売りでもあるが、それはここに挙げた「OKストア」「オギノ」「全日食」「成城石井」「セブン-イレブン」は成功した企業だが、必ずしも共通ではないことが一つにある。全日食やオギノは自動発注で成功した。セブン-イレブンや成城石井はしていない。
違いが色々あるということを踏まえた上で、先ほどお話しした一つの問題解決を総合的に組み立てるということである。

(3)システム開発と運用

(4)システム構築手法の確立

4つ目は構築のための手法を持つべきということ。
前段がグランドデザイン手法で、後段がシステム構築・開発手法である。クライアントというのは、セブン-イレブンを主語で言うと、クライアントがセブン-イレブンで、開発パートナーも入れて、戦略分析や方針分析。例えばNECや野村総研のリーダーを入れて戦略分析をやってきた。

(5)ITの活用、促進、組み立てとパートナーシップ

セブン-イレブンのシステム部門の大きな特徴は、今は変わってしまっているが、新規システムとか、海外事業とか、ビジネス開発をやらせてもらった。そういう立場にいたので、パートナーの力も幅広く借りたという面もある。自分がインテグレーターのつもりでやったということも大きな特徴だ。
ITのパートナーのトップレベルとも直接会って「セブン-イレブンは何をしたい」「何を問題解決したい」「パートナーとして協力をお願いしたい」と話してきた。こっちはソリューション・パートナーと呼んでいる、実際のシステムの運用や開発をしてもらう。そちらに任せてITパートナーと折衝してもらうのではなく。直接両方とやって、ソリューション・パートナーが仕事のしやすい環境をセットする。価格交渉ももちろん行う。自分がインテグレーターの気持ちでやるということが非常に大事だ。

ウィンドウズOSで端末を開発

図4は、1995年にマイクロソフトのスティーブ・バルマ(当時CEO)を訪ねて、97年より始まる次期総合システムのクライアント3万台のOSをウィンドウズで開発するための交渉の際のメモである。総合システムのオープン化、事業インフラ形成のために、OSの選定と機能強化は非常に重要であり、このためのパートナーシップの確立とOS開示による改造の許諾を求めて交渉に臨んだ。
CIOに限らず企業経営において重要なのは、パートナーシップの形成にある。セブン-イレブンは4兆円のビジネスを7,000人で回している。他の部分はフランチャイズを含めてパートナーである。いかにパートナーにうまく助けてもらえるか、協力し合えるかがポイントになる。その根幹は、チームワークとリレーションシップ、担当者からトップまでの面で相手と組み合う。

セミナー写真

図4 パートナーシップの確立へ向けて

マイクロソフトとwin-winの関係をつくれた

2つ目は共存共栄。今で言えばwin-win。常にこの2つの綺麗ごとがうまくいくためには、3つ目の重要な要素としてイノベーションがなければいけない。
イノベーションがあるから初めてそこに利益の源泉が生まれて、上の二つがうまくいって、パートナーシップが確立できる。イノベーションが止まれば、もう誰も見向いてくれないだろう。そういう気持ちを強く持ってやっている。
セブン-イレブンのビジネスの話をして、マイクロソフト(Microsoft)に要求した。例えば技術情報の先行開示をしてくれ、SEJ向けのOSの最適化をしてくれ、機能強化および改善の許諾をして欲しい、上記事業のためのソース開示をして欲しい、NECを入れた改造をしたい、障害対応、メンテナンスの迅速化、効率的な体制を作る。マイクロソフト、NEC、セブン-イレブンのホットラインを作る。
スティーブ・バルマーは、我々のマルチメディアをふんだんに使ったデモソフトを見るなり、「是非一緒にやりたい」と、我々の要求をOKしてくれた。

365日24時間、システム管理者ゼロでセブン-イレブンのシステムは完璧に動いた

これには、実はマイクロソフトの置かれた状況が、私の言ったことがカモネギに映った面もあるのだと思う。当時NTを出したが売れなかった。マイクロソフトのOSは、ビジネスでいけるかと。パーソナルOSからネットワークOSにビジネスモデルを変えるためのOS。誰も使わない。ところが、ここにあるように当時で6,000店。3万台程度のクライアントを全部ウィンドウズに変えるということだから、これが動けばマイクロソフトにおいてもすごい宣伝になる。事実、365日24時間、実際のシステム管理者ゼロで、セブン-イレブンのシステムはほぼ完璧に動いた。徹底的にテストをした。これが、ウィンドウズのNTが世に広がった一つのエポックになったのは事実である。非常に良い協力をしてもらった。
その技術があったから、98年、99年にATMをウィンドウズベースで開発した。徹底的にミドルを固めていた。結果的に、ここでやったことが、マイクロソフトのOSに障害管理や自動運転やエンベデッドOSなどの新たな機能を加える切欠となった。

(6)コストパフォーマンス向上と差別化の実現

6番目にコストパフォーマンス。私がいつも鈴木さんに話していたのは、ハードメリットで、つまりシステムコストが下がり、目に見えるコスト削減、計算可能なコスト削減だけで、投資をペイさせる。従来の費用以内で、パフォーマンスやサービスレベルを上げるという話をしていた。その外に数値化できない、しにくい。
例えばサービスレベルが上がるとか、競争力が上がるとか、売り上げが上がるというのは追加的な大きな効果として加わってくる。ATMをやったときも、料金設定をするときに、銀行は盛んにATMを入れればお客さんも増えて売り上げが上がるのだから、その分を勘案した料金設定をしてくれと言ったが、そういう不確かな物は計算に入れないということで組み立てて、3分の1にコストを下げて、損益分岐点が68件、今は115件だから500億儲かる。そういうデザインにした。
ハードウェアはだいたい6〜7年に1度システムを交換しているので、その間のITの進化で、大体3割は下がる。メインフレームからオープンだったら5割下がる。そのくらいの実数的な感覚を持っている。

(7)ITガバナンスの整備

最後にITガバナンスということで、これはガバナンス領域を事業環境全体、企業内ガバナンス、社員のガバナンス、情報システム部門の持つガバナンス、パートナーとの関係におけるガバナンスという。
ITガバナンスについて色々なことが言われているが、ガバナンス的というか、コンプライアンスの管理、形成とかに重点がいっているのは少しおかしい。より一層、事業目的が明確になって、企業のミッションが明らかになって、ITをどうするかという考え方が明らかになるようガバナンスを位置づけ、改革のエンジンとしてのITの活用の仕方を明確にするべきだろう。それから、外部の成功事例の導入や、技術革新に自らも取り組むことも、ガバナンスであると共に、CIOの役割でもある。ちゃんと動いていればそれで良いということではなく、ガバナンス自身に新しいものを吸収して開拓しているかということを込めるべきだ。

■CIOとは何か

CIOは変幻自在

CIOとは何か。企業によって違うが、ITをどの程度駆使して、重視していくかということ。つまり、ITの事業戦略的な役割や位置付けによってCIOの役割も変わってくる。
図5にある様に企業の考え方や業務の領域、何が重視されるかの時期やタイミングによってCIOの役割りも変わってくる。「CIOは変幻自在」というのはその意味で、どの役割もこなせなければいけないと私自身は思っている。

製造小売業へと変身した

ここで経営スタイル、世の中の進化に応じて、普通のコンビニとしてのモデル、物を売る、そこにサービスを加え、製造、配送、販売の連携を一層高めて、非常に密な、実態としては製造小売業として変形してきた90年代、そして地域に広がり、根付いて役立っていく、経営のスタイルをバリューチェーン経営とプラットフォーム経営と価値共創経営、ここはまだ見えてこないが、ITの使い方も変わってくる。
ITをバリューチェーンの確立に使っている。ビジネスの支えに使っている。ITによる事業プラットフォームの形成、事業の領域を広げるとか、異業種との連携、そこにITが広がっている。さらにそれが社会インフラとして広がっている。
例えばセブン-イレブンでは将来的には、今の店のスタイルではなくて旗艦店ができて、そこからお弁当や薬やネットや電話も含めてお客さんの欲しい物を、買い物代行としてお届けする。そんな役割を果たす企業になる可能性が、1番距離的には近いところに来ている。そうするとITのありようが変わってくる。

CIO役割=世の中の変化×業界の差別化×ITの革新力×業務システムコンセプト×IT活用

CIOに求められる役割であり、私のコンサルティングの一つのまとめでもあるし、仕事のまとめでもあるが、世の中の変化と業界の差別化、ITの革新力、業務システムのコンセプト化、これは両輪で業務とシステムをデザインする。そしてIT活用の流れ。このかけ算をできるのがCIOである。こういうことを考えている。多分ほとんどいないと思うが、こういうことを考えている。それから方法論を持つ。デザイン力を上げる。

図5 CIO機能の広がり

図5 CIO機能の広がり

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質疑応答

司会(小平和一朗専務理事):大変示唆に富む話で、CIOの役割が、資料を見るだけでもだいぶよく分かる、非常に印象的であった。CIOというのが良くわかったと思う。

回答(碓井誠講師):(CIOをChief Information Officerでなく、)Chief Innovation Officer と皆言っているが、そういうことだろうとも思う。

組織的な指示命令でシステムは開発されていない

司会(小平和一朗専務理事):マネジメントよりの話もだいぶして頂いた。高い観点でものを考えていられると思った。ここは聞いておきたいということがあれば、いかがでしょうか。

回答(碓井誠講師):組織的に指示命令でシステムは開発されてはいない。組織とは割にきちんと戦略方針に沿って動いているように見えるが、ある程度Division Headの思いで、相当世の中、企業の将来の方向が決まってくる側面がある。例えば先ほどの銀行プロジェクトは、トップに報告するまでに1年間勝手にやっていた。報告して「それは良い、やろう」というお墨付きをもらって、銀行と交渉して調印までいった。
99年11月に日本債券信用銀行が破綻して日債銀の売却が議論された。ソフトバンクの孫さんから電話があって、当時は孫さんと他の仕事をしていたので「日債銀を東京海上とセブン-イレブンとソフトバンクで買わないか」との提案があったが、結局買えなかったし、買っても仕方ない部門しか譲渡されなかった。そこから銀行構想に変わった。こういうこと会社の戦略として皆がある意味でコンセンサスを持って、手がつけられていたかというと、決してそうではない。

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「アメリカのセブン-イレブンの再建に参加して、一緒にやったチームのアメリカ人と一昨年たまたま再会した。
間10年くらい空いていた。「プロジェクトで大事なことは何か」ともう1度聞いたら、
『心意気』だと日本語で答えた」と話す講師の碓井氏。

質問(杉本晴重元沖データ代表取締役社長、元沖電気常務取締役CTO):2点ほどお聞きしたい。1つは、海外にかなり展開されているが、海外も基本的には同じシステムを展開されているのか。

回答(碓井誠講師):セブン-イレブンは第5次だといっている。大体アメリカは第4次システムである。中国は3次システム。こんな感じである。実は大きな誤解があるが、セブン-イレブンが展開している世界の約5万店の中で、セブン-イレブン・ジャパンが直接展開しているのは、中国がまだ400店にならない。それとアメリカ7,000店とハワイ70店。それだけである。それ以外の、例えばタイの7,000店とか、台湾の6,000店は単なるフランチャイズである。看板を貸してチャージをもらっているだけである。1つのシングルカンパニーではない。当然システムも違う。

質問(杉本):もう1点は、図5が非常に分かりやすいが、私の出身のメーカーでは、下の左の方にCIOは位置づけられていることが多い。事業戦略や新規事業はそれなりの別の部門が強くて、そことCIOがやらなければいけないケースがほとんどである。今後のことを考えると、右側の下のビジネス、システム、ITの一体化を合わせて考えられるような人がいなければいけないと思う。今日のお話は、小売業だけではなくて他の業態やメーカー等も大きな流れになっていくと捉えても良いのか。

回答(碓井誠講師):セブン-イレブンは非常に簡単である。というのはシングルビジネスで4兆円やっている。こういう会社は自動車を除くと非常に少ない。色々な事業があって、それを全部分かって業務部隊を束ねられるCIOというのは、果たしているかどうかという疑問がある。セブン-イレブンが簡単なのは、イトーヨーカドーは20万アイテムある。セブン-イレブンは1万2,000アイテムである。アイテム数が少ない。モデルとしてインフラを作れば上にどんどん店舗ができて回っていくような、ものすごく良いモデルである。1アイテム当りの売り上げも高いから効率も良い。1アイテム当りイトーヨーカドーの20倍の売り上げがある。ものすごくビジネスモデル的に分かりやすく、やり安いモデルである。
今ご質問のあったような形で製造業だと製造技術の方が強い。それにCIOが、それ以上の技術力を持ってもの申せるかというと、ちょっとそれは難しい気がする。むしろそういう時には、セブン-イレブンの商品開発をやっている営業と商品部が非常に密に連携して、ここにパートナーを全部加えて、原材料メーカーから、パッケージのメーカーから、製品メーカーが皆入ってチームでやるっている。こっちのスタイルかなと思う。
例えば、1つのイメージで言うと小松製作所がそうだと思う。あそこはコムトラックス(KOMTRAX)というシステムを開発し、世界30万台の機械の動きを見ている。そのデータを持ち寄って、保守メンテナンスや商品開発に使うと共に、製造計画にもそのデータを使っている。
従来は重機や車は、ディーラーの発注数を積み上げていた。それが現場での稼働状況を見てどのくらい重機がこの国ではフルで稼働しているとか、そのデータを持ち寄って、営業と製造が話し合って決めている。あるいはそこに出てきた色々な課題、メンテナンスや商品開発も、コムトラックスからの情報を元にやっていると聞いた。
そういうスタイルの総合的なチーム型のIT活用ということが、大きな企業の事業部を抱えたところでは1つのスタイルではないか。CIOがもてはやされた時代も、特にアメリカではあるが、CIOだけでそこまでやるのは難しいと考える。

CIOは変幻自在で、変幻自在の能力を持つ

質問(小平):経営学的に見ると、会社の実態に応じて選択していくというのはすごく難しい話ではあるが、そういう視点を持つ必要があるということか。

回答(碓井誠講師):企業経営の視点で見ると共に、企業経営は経営者だけがやっているわけではなくて実務担当が持っている知恵とかバイタリティとか、これのかけ算だと思う。経営者がいかに優秀でも、企業が優秀になるとは限らない。ITはそういうところまで入った話だという見方をするべきだと思う。そういう意味でCIOは変幻自在の能力を持つことが必要だと思う。

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「企業経営は経営者だけがやっているわけではなくて実務担当が持っている
知恵とかバイタリティとかのかけ算だ」と話す碓井講師。

富士山の裾野が広がって山が高くなったように、コンビニ全体の成長にもつながっている

質問(吉久保信一弁護士):日本のコンビニ業界では、パートナーの組み方は、この会社はセブン-イレブンとしか組まないとか、そういう関係性なのか。システムができても、バーコードやレジも含めて、外に見えてしまうので、全部他にも流れるのか。

回答(碓井):大体そういう関係になってくる。このサイズになると。伊藤忠はファミリーマート、三菱はローソン、セブン-イレブンは三井物産と仲が良い。セブン-イレブンだけは出資関係ではないが。だいたい住み分けないと情報が流れる。
セブン-イレブンは、非常にオープンである。もう隠しようがない。1万6000店あったら、ローソンに息子が勤めているということもある。その日に出した情報は、その日のうちに伝わる。そのつもりでやらなければいけない。システムは、オープン化のときに研究開発費をうちは持たず、その代わりにオープンのノウハウを隠すわけにはいかないので、メーカーが他に使ってもクレームは付けないことにした。セブン-イレブンはハードウェアとミドルウェアは1年経ったらよそに使っていい。他社がセブン-イレブンのようなシステムを作りたいと思ったとしても、1年はかかるので、基本的には制限無し。アプリケーションは人の頭の中に入っているので、転用はダメだと言っても制止できない。私はセブン-イレブンを辞めて色々なところのシステムを見たら同様なものが多かった。結局それが富士山の裾野が広がって山が高くなったように、コンビニ全体の成長にもつながっている。
コンビニが伸びたのはまさにそれだと思う。コンビニは全部やり方が一緒である。ファーストフードや、フランチャイズや、共同配送、基本的には品揃えも一緒。他の小売り以上に一緒である。だからお客さんから見たら、同じようなお店で便利だなと、ちょっと使ってみようということで使ってもらえる。だからシステムも当然近い。コストパフォーマンスは全然違う。
システムだけは皆さんご承知の通り、100万かけたからって車のように105万か95万の品質ではない。システムは倍かけたって3倍かけたってプアーなものは生まれるし、下手したら動かない。大手チェーンの間でもそうである。

自分が知らないところで方針が決まるというケースはほとんどない

質問(川口弘行サイバー大学専任准教授):3人からスタートされた部門として、少なくとも鈴木CEOからもう良いと言われるまでは成長路線を走っていたと思うが、そうは言ってもそこまで大きくするまでの、どういうドライブの力でそのように拡大していけたのか関心を持っている。

回答(碓井):面白かっただけである。セブン-イレブンの非常に良いところは、戦略が分かって現場のニーズが分かるという立ち位置で、IT部門が仕事ができる点だ。セブン-イレブンのディシジョン・メイキングは基本的にフラットで、鈴木さんがいて後は同列。確かに人数では、営業は2,000人いるしシステムは100人しかいないという差があるが、同じ場に出てディシジョン・メイキングに参加する。これをダイレクト・コミュニケーションといって、鈴木さんと営業本部長は別に会議を持って方針を決めることは、ゼロとは言わないが99%ない。そのためにどういう会議体を持っているかというと、役員会が週1回、業務改革会議が週1回、いまは2週に1回。部長以上が改革提案をする。マネージャー会議が2週に1回。8店舗位を見ているカウンセラーが2,000人くらいのフィールド・カウンセラー会議が週1回。これにも鈴木さんが出る。基本的にはこの4つの会議。トップが直接会議に出るのが4つある。それ以外の個別の会議はない。だから内容はほとんど営業会議。そこで決まる。営業で現場の問題が出ると、同時に共有されるから、結局自分が知らないところで方針が決まったものが降りてくるというケースはほとんどない。このディシジョン・メイキングの体制が取れていたから、システム部門が他の部門に入り込んでいったり、経営のことが直接的に分かる立場で仕事をする。もう1つ、月に1度、月次の商品計画会議。商品と営業とプロモーションの今後1、2ヶ月の方針を決める会議。これはディビジョン・ヘッドが全部出る。会計部門も出るし、全員が営業に直結したところで決まるし、共通の場で決まる。だからこういうことが可能になる。

CIOだけで解決するのはなかなか難しい

質問(川口):僕も色々な会社や行政を見て、情報システム部門の距離が遠いところは、すごく仕事がやりづらい。逆にそれを補うために、CIOなり補佐官がある程度トップに近いところにいて強権が発動できるとか、そういう状態にならない限り、その組織のガバナンスの体制を作ることすら困難だ。どこにその秘密があるのか関心を持っている。

回答(碓井):皆、総論賛成、各論反対が完璧に出る部門である。非常に偉そうな言い方で恐縮だが、CIOがどうというよりも会社が非常に特殊で、そういうマネジメントスタイルだった。鈴木さんは朝令暮改と言うし、そこにフィットする動き方を各部門も考えてやっていくということもある。私も辞めて色々なところでコンサルをしているが、こういう機会は極めてまれである。鈴木さんは私が78年に入社した時から社長だった。そのリーダーシップとカリスマ性は異質だ。CIOだけで解決するのはなかなか難しい。

社会的な領域への広がりを自分のビジネスにしていくという1つの価値観

質問(大橋克己元クラレ常務取締役):店舗の拡大基調にはシステムがあるということを見ると、システムが変わって、それに基づいて変わっている。しかも1次と2次と、オーダーや店舗数が違う。システムと共に基本的には店舗拡大、売り上げが伸びて、またシステムに受け入れられているということがはっきり見えている。そこがある面で自信だと思う。ITを積極的に使うことが、求められているイノベーションを起こすということ。それから普通にやっていれば良いじゃないかという切り替えのこと。新しい提案がうまくいかなかったということもあると思う。こういう業界の中で、どんどんシステムを新しくしていく、そうするとやはり強いシステムが出来上がってくると、世の中で圧倒的に競争力がつく。収益力を含めてそうなると思う。経営の側からして、コスト論に注目するのはそうだと思うが、ビジネスの広がりは、お客さんがどこまで受け入れられる提案をセブン-イレブンに期待して、かつそれを提案されたときには受け入れて、連合を組んで良いサイクルになって拡大していくということになっていくと思う。その辺りのところと、現場のデータを分析しながらビジネスの構造とかスタイルが変わってくる。また競争相手が変わってくるというところを実践的に判断されたと思う。投資効果に対しての期待値と意欲のアンバランス、認められなくなる時があるのではないかと思う。海外に出したときに、かなり違った部分を問題にするのではないかと思う。その辺りをどう考えていられるのか。

回答(碓井):売り上げ費0.5%くらいだと思う。決して高くはない。しかし絶対額は多いから、年間支出費用が200億くらい。ただビジネススタイルから考えると、決して多くはない。基本的にはセブン-イレブンも、社会インフラという意識が相当トップから出てきている。鈴木さんは小売業は変化対応業だと言っている。
先ほど2つしか言われたことがないと言ったが、どうしたら良いかと聞いたことはある。鈴木さんが言うのは、「何でもできるようにしておけ」と。これはある意味ではありがたい話。そのときに、社会インフラという視点もある。例えば、地震のときにセブン-イレブンは営業した。コンビニも右へ倣えて営業した。なぜできたかというと、3時間無停電電源装置を20年前に入れて、レジとパソコンをきちんと動かすようにした。3時間の計画停電の間も充電して使えた。これはまさに社会インフラである。
昔福島の送電線の鉄塔が雪で倒れて、30年前、セブン-イレブンはろうそくを立てて営業した。そのときにものすごくほめられた。そのときに、そういうことを志向しようと考えた。何かがあったときに、きちんと支えられるように考える。そのときにコストが許すようになったので、10年後にバッテリー化になる。ご質問の意図と合っていないかもしれないが、社会的な領域への広がりを、自分のビジネスにしていくという1つの価値観というものがだんだん育ってきた。ある程度潜在的にある企業だと思う。そういうことに触れてきている。そうなってくれば、ITを使っていく方が色々なことができる。
今はエネルギーのこともやっているし、社会的なヘルスケアとか、ご用聞きとか色々なところに可能性があるが、こういうものがより社会性を帯びてきたときには、もう少し違うやり方、セブン-イレブンの集合拠点を作って、そこと店とを結ぶ。店と他の事業者が結ばれるとか。私はそういう方向になってもらいたい。そういう方向性があるビジネス領域にいるというのは、やはりIT投資を押さえ込むことにはならない。方向性を見出していくことができるところにいると感じている。

仕組みは段階を踏んで達成するものではない

質問(大橋):素晴らしいビジネスモデルと同時に、インフラ、海外で展開する際には、もう一度現地を良く考えなければ行けない。

回答(碓井):私も中国、インドネシアでやってきているが、基本的には同じことを言っている。超えたいところは先ほどの全日食。自動化である。1品1品を見ながらやって行くのは相当大変で、セブン-イレブン以外では真似できない。単品管理は人間が一生懸命やるだけではない。自動発注でも良いじゃないか。全日食はその成果が出た。自動発注をして、発注がきちんと回って、浮いた時間を客や商品に目がいくようになった。しかし、自分できちんと発注しないと、商品に対する思い入れがなくなってダメになると考える企業もある。今はそうではなくてそれで成功しているITをうまく活用している企業もたくさん出ている。そちらに持って行けば、アジアでも高度な仕組みが活用できる。仕組みは段階を踏んで達成するものではない。インフラなので、ドカンと一定のレベルまで上げて、そこで何ができるか考える。段階的に上げているとトータルな改革が遅れる。ITが進化して、コストが下がればこれが可能だ。
アジアも人件費が上がり始めた。今まで物流ではピッキングセンターで、在庫はこうで、こうしましょうよと言っても、結果向こうの方が安い。今はほとんどイーブンになってきた。中国の人件費がここ4~5年で倍近くになっているし、インドネシアでは昨年40%最低賃金が上がった。これが効いてくる。ITに対する見方が変わらざるをえないのでないか。

【解説】

GMS:general merchandise store

スーパーマーケットを除く百貨店、ディスカウントストア、専門店

C2C:Consumer to Consumer

ネットの進展で、一般消費者相互間で直接取引が可能となった。

CIO:Chief Information Officer

CIO:Chief Innovation Officer

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